もぐもぐもぐ……。


「うむ、美味しい。この味は黒ゴマを使っているのだろうか。見た目に反して上品な味わいなのだ。」
「形がソレでも、飛鳥が作った練り切りだからね。美味しいに決まっているさ。ね、シュラ。」


褒め言葉を並べながら、もぐもぐと味わうカミュを見て、ディーテはクスリと笑ってから、シュラにウインクを一つ飛ばした。
しかし、それを受けたところで当然、シュラの表情は変わらない。
ムスッとしているのか、何も考えていないのか、目付き鋭い無表情のまま。
ココに居る仲間達は付き合いも長いから気にしないが、知らない人が見たら、確実に『怒っている』と思ってしまうだろう。


「……俺を食って良いのは、飛鳥だけなんだがな。」
「は? 何だい、シュラ?」
「俺を味わって良いのは、飛鳥だけだと言っている。」
「はいはいはいはい。惚気ですかぁ、またまたまたまた。」


酷く酔っ払い気味のミロが間に割り込んで、舐めるようにシュラの顔を至近距離から見遣る。
しかし、シュラは小さく眉を上げただけで、相手にもしない。
だが、間に割り込んできた飲んだくれのミロの邪魔な頭を、カミュがグイと押し退けた。
そして、目の前の相手の顔をジッと見つめると、見られた方のシュラが訝しげに表情を強張らせた。


「何だ、カミュ?」
「いや……。そんな風に砂糖を吐く男だったかと思ってな。もっと硬派な人だと思っていたのだ。」
「昔は、女嫌いかと疑われる程に、女の子に興味がなかったからね、シュラは。」


そんな男が、飛鳥にはスッカリ首っ丈になっているのがおかしい。
ディーテがクスクスと笑ったのを受け、フンと鼻を鳴らすシュラ。
そんな彼等の横で、恋愛話には些か疎いサガとリアが、苦笑いを浮かべて聞いている。
ただ、酔いが回りに回ったミロだけが、チャンスを逃すまいと、執拗にシュラに絡んできた。
良くもまぁ、このスナイパーみたいに鋭い目をした男に対して、平然と詰め寄れるものだ。
それもこれも長い付き合いだからこそ出来る事。


「女の子に興味すらなかったヤツが、何がどうなって、何をどうしたら、飛鳥みたいな可愛い子を彼女に出来るんだよ。どうやって落としたんだぁ? なあ、教えろって、シュラ。」
「おい、誰だ? こんなベロンベロンになるまで、ミロに飲ませたヤツは?」
「誰だと問われれば、それはミロ自身だよ。強くて飲み易い酒を出してくれって言われたから、ロングアイランド・アイスティーを作って上げたのさ。」
「お前な。男にレディーキラーを出して、どうする?」


今度はシュラが詰め寄るミロの顔を押し退け、深い呆れの溜息を吐いた。
女を酔わせるためのカクテルで、男が酔ってしまっては意味がない。
しかも、まだ夜の八時を過ぎたばかりで、酔い潰れるには早過ぎる。
暇に任せてディーテの店に入り浸り、早い時間から酔っ払っているとは、何と不健全な事か。


「こんなところで管を巻いている暇があるなら、合コンにでも行ったらどうだ?」
「嫌なのさぁ、合コンは。遊び人扱いばかりされるし……。」
「そういう事。要するに、キミが羨ましいのさ、ミロは。」
「酔っ払いのミロは、私が責任をもって連れて帰る。少々ウザいが、それまでの間は我慢するのだ。」
「そうか……。」


シュラとカミュが話をしている間に、ミロは何やらブツブツと呟きながら、カウンターに突っ伏して寝てしまった。
苦笑するサガとリア、呆れて肩を竦めるシュラ、表情一つ変えないカミュ。
そんな彼等を正面に眺め、微笑みを浮かべたディーテは、カミュに新たなカクテルを出すと、スッカリ眠りの世界に落ちてしまったミロの頭を、ポンポンと軽く叩いた。





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