「これはっ……?!」
「どうした、ディーテ? 何が入っていたんだ?」


蓋を置き、見えるように両手で箱をリアの方へ差し出すディーテ。
僅かに腰を浮かせて、リアが箱の中身を覗き込む。
と、ディーテと全く同じ、リアも中を見た瞬間に、目を見開いた。
これが飛鳥の和菓子?
いやいや、これは……。


「……猫?」
「猫だね。うん、これは猫だ。黒猫だ。」
「これが和菓子なのか?」
「正真正銘の和菓子だ。食ったら美味い。普通の練り切りと変わらん。」


普通、上生菓子と言えば、季節の花や果物などの日本的なモチーフで、美しく上品に作られているものだ。
だが、目の前の箱の中に並べられたものは、ポップでファンシー、可愛らしくてユーモラス、通常の上和菓子とは懸け離れた代物だった。
真っ黒だがチャーミングな黒猫が、小さな箱の中で、笑ったり、不貞腐れたり、照れたりと、様々な表情をして並んでいる。


「飛鳥はサガの店で、一体、何の本を買っていったんだ?」
「まさか新作の和菓子のモチーフが猫だったとはね。何がどうなってこうなったんだか……。」
「これを店のショーケースに並べるつもりか? いや、しかし、この猫型和菓子を、他の綺麗な和菓子と並べて売るのは、どうかと思うが……。」


リアよ、飛鳥の新作に衝撃を受けたのは分かるが、和菓子を猫型ロボットみたいに言うのも、どうかと思うぞ。
しかし、気持ちは分かる。
このようなファンシーな代物が、趣ある和菓子屋に並んでいるのは不自然極まりない。
近所の小さな団子屋ならまだしも、飛鳥の店『壱月堂』は老舗と呼ばれる和菓子屋だ。


「それは新作ではない。新作の試作品は既に俺の腹の中に収まっている。」
「あ、そうなのか……。」
「なら、これは何だっていうんだい?」
「お遊びで作ったらしい。何でも、俺をイメージしてみたとか言っていたが……。」


それならば納得だ。
しかし、シュラのイメージで作った和菓子が何故、黒猫の形をしているのかと、ディーテもリアも首を傾げる。
その時、横でサガ・ミロと話し込んでいたカミュが、チラとそれに視線を向けた。


「うむ。シュラそのものだな。」
「……え?」
「は? どういう意味だ、カミュ?」
「先程、ウキウキで飛鳥の店に向かうシュラの頭と尻に、黒猫の耳と尻尾が生えているように見えたのだ。多分、飛鳥も同じように感じていたのだろう。シュラが黒猫っぽいと。」
「俺が……、猫っぽい……。」


無意識なのか頭に手をやり、ワシャワシャと髪の毛を掻き回し始めるシュラ。
現実に生えている筈はないのに、猫の耳と聞いてしまっては、気になって仕方ないようだ。
実際には生えていない耳を探して、いつまでも頭頂部を触り続けるシュラの仕草に、成る程、こういった天然な部分も含めて猫っぽく見えるのかと、ディーテは納得した。


「これを飛鳥がお土産に渡したという事は、皆でシュラを食べろって意味なのだろうね。」
「何っ?!」
「凄んで脅したって駄目なのだ、シュラ。食べてしまえばこちらのものだからな。」


横からヒョイと手を伸ばし、並んでいた練り切りを一つ、困り顔した黒猫を、その指で摘まんだカミュ。
それを手に、一瞬だけデスみたいにニヤリと笑った後、彼はシュラに見せつけるように黒猫の顔を齧ったのだった。





- 11/17 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -