「こんにちは〜。」
「ぃらっさぃませー! って、飛鳥さんじゃん。どしたの? 店は?」
「今日はウチのお店、お休みなの。星矢くん、いつも元気ね。」


ランチを終えた飛鳥が訪れたのは、飛鳥の和菓子屋や中華料理店『五老峰』と同じ商店街にある書店。
そう、サガが営む古書店だった。
店の買い出しがあるというディーテ、家に帰るというミロと別れ、帰路に着いた飛鳥だったが、時間もある事だしと、ちょっと立ち寄ってみたのだ。


「サガさんは?」
「オーナーなら、店の奥で仕分けしてる。こないだ買い付けてきたヤツだと思うんだけど、今朝、モリモリ大量に本が届いてさ。」
「ふ〜ん、モリモリ……。」
「そ、モリモリ。あ、ちょっと待ってて。オーナー! 飛鳥さん来てるー!」


サガに言われるまま古書をバシバシと棚に並べていた店員の星矢だったが、大事な商品の筈の本を適当に放置し、大きな声を上げながらドタバタと店の奥へ入っていく。
そんな彼の姿を見送り、苦笑いを浮かべる飛鳥。
星矢が置き去りにした古書の一つを手に取り、パラパラと捲ってはみるが、余りの異次元で意味不明な内容に、飛鳥の苦笑いがグッと深まった。


「やぁ、飛鳥。いらっしゃい。」
「こんにちは、サガさん。ごめんなさい、忙しかった?」
「いや、急いで仕分ける必要はないんだ。ただ新しい古書が届いて、少々熱中してしまっただけでね。」
「本当に本好きですよね、サガさん。」


飛鳥と会話しながらも、本を運ぶためのワゴンに残っていた本をせっせと棚に並べていくサガ。
放置された本が気になってしまうのは、その几帳面な性格ゆえ。
そして、古書に対する溢れんばかりの愛情ゆえだ。
飛鳥は別の古書を手に取りパラパラと捲るが、先程にも増して異次元な内容に、その顔に浮かんでいた笑みが、苦笑いから空笑いに変わった。


「あはははは。何ですかね、この意味不明に難解な本は?」
「それは昔の建築関係の専門書だね。正直、私にも理解出来ないんだが、需要があるので仕入れているんだよ。あぁ、そうだ。専門と言えば……。ちょっと待っていてくれるかい?」


バタバタと奥へ消えていった星矢に比べ、サガは急ぎ足でもスムーズでスマートだ。
そういう無意識の所作が大人なんだよね、この人は。
そう飛鳥がボンヤリと思っている内に、彼は一冊の本を手に颯爽と戻ってきた。
チラと見えたバックヤードの中では、先程、姿を消した星矢が黙々と注文品の本を梱包している。
どうやら棚に並べ途中だった古書の事はスッカリ忘れてしまったらしい。


「専門書で思い出したのだが、これはまさにキミの専門じゃないかな。先日の買い付けの際に見つけてね。どうだろう?」
「あ、これ……。」


差し出された本をパラパラと捲ると同時、飛鳥の目がキラキラと輝いた。
古い時代の和菓子の雛形が載せられた、所謂、デザイン書。
美しい上生菓子が何種類も、季節やモチーフ毎に纏められ、作り方やコツなども細かに書かれている。


「綺麗! 素敵!」
「お気に召したかな?」
「うん、とても! これ、私が買っても良い? あ、でも、お値段お高い?」
「飛鳥だからね、まけておくよ。それともシュラのツケにしておこうか?」
「それでも良いけど……。でも、ちゃんと自分で買うわ。ありがと、サガさん。」


丁寧に包んでくれた和菓子の古書を受け取り、見るからにウキウキな様子の飛鳥。
そんな彼女を見て、サガも嬉しそうにクスッと微笑んだ。





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