「ふあぁぁぁ……。あ〜、クソ眠ぃ……。」


デスが目覚めたのは、九時半を少し過ぎた頃。
十一時までに職場に着くには、十時半に家を出れば間に合う。
まだ一時間あるし、急ぐ必要はねぇな。
乱れた髪を掻き毟りながらシャワーへと向かう途中、床に転がった死体状態のミロを、デスは足の爪先で軽く小突いた。


「オイ、起きろ。」
「んあ〜……。まだ……、寝てる……。」
「駄目だ、起きろ。つか、なンで床で寝てンだよ。ソファーあるってのに。」


なンで柔らかいソファーじゃなく、硬いフローリングの床で寝てンだか、コイツは。
呆れの溜息を吐きつつ、デスは浴室へと消えた。
ま、ヘベレケの酔っ払いに理由なンぞ聞いても意味ねぇか。
シャワーを浴び終えた後も、まだ床でゴロンゴロンしていたミロは、夢と現(ウツツ)の狭間から暫くは抜け出せそうにない雰囲気だった。


「さて、朝メシはどうすっかね……。」
「……ん〜、……ごは、ん〜。」
「オマエは早く起きろ。いつまでも寝ボケてンなよ。」
「ん〜……。」


結局はトーストとスクランブルエッグ、それにコーヒー牛乳という簡単な朝食に落ち着いた。
トースターから漂うパンの焼ける香ばしい匂いが、部屋の中いっぱいに広がっていく。
それと同時、それまで殆ど夢の中に沈んでいたミロが、鼻をクンクンいわせてムクリと起き上がった。


「良い匂いがする……。」
「朝メシ出来てるぞ。お前も早く食え。俺は仕事があンだから、ココに居座られても困るンだよ。」
「今、何時?」
「十時だ。おはようって時間でもねぇな、もう。」


重い身体で床を這ってきたミロは、よじ登るように食卓の椅子に上がり、ドカリと座り込む。
目の前には、極々普通の簡単な朝食。
だが、料理上手のデスの手に掛かれば、ピカピカ光ってみえる程に美味しそうに出来上がり、卵が黄金色に眩しい。
二日酔いで胃がムカムカしていた筈のミロのお腹が、香りと見た目の相乗効果により、グーッと派手な音を鳴らした。


「うまっ。スクランブルエッグ、うまっ。」
「タダの卵だろ。つか、イイよなニートは。気楽でよ。」
「ニートじゃないし!」
「ニートみてぇなモンだろ。そンだけ暇してりゃ。」


プンスカと怒りながらも、ガツガツと食べる手は止めないミロ。
怒るか食うか、どっちかにしろよなと、呆れつつコーヒー牛乳を啜るデス。
一瞬の間の後、虚しい空気が二人の間を通り抜けた。
良く良く考えてみれば、男二人が向かい合っての朝食。
こんなに虚しいものはない。


「壁の向こうではウキウキ、ラブラブなのになぁ……。」
「イチャイチャし過ぎンのも問題ありだがな。人様の迷惑、まるで考えてねぇし、アイツ等。」
「良いなぁ、可愛い彼女。俺も飛鳥みたいな彼女が欲しい。」
「だったら作りゃイイだろ。オマエなら選びたい放題だろが。」
「そうじゃないんだって。夜な夜な遊び歩いてるデスとは違うんだよ。」
「へーへー、そうですか。取り敢えず、早く食っちまえ。もう時間がねぇ。」


少し慌てた様子でカリカリ、バリバリとトーストに噛り付く音が、男二人の部屋に響く。
やべぇ、今ので虚しさが更に増したぞ。
兎に角、この状況から早く抜け出したいデスは、今日の仕事をどうするかと、そちらに意識を移して、目の前にゴツイ男がいるという現実から目を逸らそうとした。





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