その頃、二階のシュラの部屋では――。
シュラが飛鳥をベッドに押し倒し……、ているような状況ではなく、二人並んでテレビの前に座り、お笑い番組を見て笑っていた。


ベチンッ!


「痛っ! 何故、叩く?」
「シュラの手が不埒だからに決まってるでしょ。」
「不埒って……。今夜は泊りだろうが。触って何が悪い?」


フンと鼻を鳴らしたシュラの手が、再びスルスルと飛鳥の腰に向かって伸びてくる。
だが、その手の甲をベチッと強く叩き、飛鳥は山羊の魔の手を撃退した。
何とかソッチの方向へと持っていきたいシュラと、何としてでもソレを避けたい飛鳥の、一進一退の攻防戦が繰り広げられている。


「今夜はゆっくり休みましょう、ね?」
「明日は休みで泊まりだというのにか?」
「休みは私だけでしょ。シュラは仕事があるじゃない。だから、無理しちゃ駄目よ。」
「俺はそんなにヤワじゃない。仕事があろうが何だろうが、朝まで何回だって出来るぞ。試してみるか?」
「試しません〜。」


呆れた声で返事をしつつ、飛鳥は腿を這い上がってきたシュラの手の甲を、今度はギュッと抓った。
朝から夕方までバリバリ仕事をし、それからジムで汗を流して、十分に疲れている筈なのに。
しかも、今日は水曜日。
仕事は明日・明後日と、まだ二日もあるというのに、どれだけ体力自慢なのだろう、このムキムキマッチョなサラリーマンさんは。


「例えクタクタに疲れていようと、お前とのエッチは別腹だ。」
「いや、あの、シュラさん。そんなスイーツは別腹みたいに言われても……。」
「嬉しくないのか?」
「嬉しくないです〜。」


こんなところで男の活力を見せつけられても、ねぇ……。
シュラの手を押し退けながら、飛鳥は呆れを多分に含んだ溜息を吐く。
サラリーマンとは思えぬ筋骨隆々とした肉体に、有り余る程の体力を持ったシュラ。
アスリートでもこんなに素晴らしい身体をした人は中々いないのではないかと思えるのだから、何故、サラリーマンなんぞやっているのかと疑問に感じ首を傾げたくなる。


「サッカー選手にでもなれば良かったのに。」
「そこまで上手くはない。俺程度ではプロにはなれん。」
「こんなに立派な筋肉を持ってるのに、勿体ない。」
「身体を鍛えるのはタダの趣味だ。」


ベチベチとシュラの胸筋やら腹筋やらを手の平で叩く飛鳥を見下ろし、シュラはクイッと片眉を上げる。
ここで、こうして押し問答をしていても仕方ない。
折角、飛鳥が休みの前夜だというのに、何も出来なければ生殺しだ。
その方が余程、身体に悪い。
悶々と眠れずに一晩を明かせば、明日の仕事にも影響が出るだろう。
多少寝不足になっても、彼女とベッドの上で汗を流し、体力を使った方が、明日の仕事には元気に出て行けるというもの。
という事で――。


「わっ?! わわわっ?!」
「こうなったら力尽くだ。」
「えええっ?! ちょっと、シュラ!」
「暴れても無駄だぞ。」


問答無用で飛鳥を抱き上げ、シュラは悠々とベッドへ向かった。
流石は筋骨隆々、アスリート並みの肉体を持った男。
華奢な飛鳥が腕の中でどんなに暴れようともビクともせずに、彼女をベッドまで運んでいく。
二人、折り重なってベッドに倒れ込めば、そこから先、向かう場所は一つしかない。
飛鳥はズシリと重いシュラの体重を受け止めながら、深い諦めの溜息を吐いたのだった。





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