「夜遊びかぁ。デスみたいな女の匂いプンプンな夜遊びは別として、俺がココでこうして飲んでるのも、夜遊びに含まれるのかなぁ。」
「それは……、目的にもよるんじゃないのか?」


どういう事かと問いた気に、ミロはカタリと小首を傾げてサガを見遣った。
その視線を受け、サガはグラスのゴッドファーザーをゆっくりと口に運び、ゆっくりと含み、ゆっくりと味わう。
それから、おもむろに口を開いた。


「例えば、私のように静かにゆっくりとアルコールを楽しみ、それで癒しを得ている人にとっては、これを夜遊びとは言わないと思うがね。」
「なる程ねー。じゃあ、暇潰しも兼ねてカクテルを煽るように飲んでる俺は、やっぱ夜遊び真っ最中って事になるかぁ。」
「ミロはまだ二十六歳だろう? 今の内に夜遊びを楽しんでおくのも悪くないと思うけど。ま、私は売り上げが増えるから、飲みに来てくれるなら何だって嬉しいけどね。」
「でもさぁ……。」


納得し切れない声で、真上をチラッと見上げたミロ。
そんな仕草を見たディーテは、そういう事かと合点がいった。
要するに、羨ましいのだ。
夜遊びなどせずに真っ直ぐに帰宅したくなるような相手がいる事が。
シュラと飛鳥の仲の良さを目の当たりにしたら、羨ましくなるのも当然か……。


「それこそ、合コンでも行けば良いのに。キミなら十分にモテるだろ? 選びたい放題なんじゃないのかい?」
「ミロは有名なモデルだから、女の子達は大喜びするだろうに。」
「それが、そうでもないんだ。今の女の子は有名人よりも将来的な堅実性を重視するの。俺の仕事は安定してないだろう? 将来設計が不安な男はモテないんだ。」


実際、何度か人数合わせに呼ばれた事があるのだが。
始めの方こそキャーキャー騒がれて女の子も積極的に寄って来るが、飲み会が終わる頃には皆、有名企業に勤める男に狙いを定めて、自分には目もくれないという切ない状況を、ミロは何度も経験していた。
彼女達が求めるのは、安定した高収入と、安定した将来。
結局、そこでモテるのは、シュラのような大手商社勤務で、それなりの年収がある、真面目な男なのだ。


「学歴は一緒なのになぁ。同じ大学を出てんのにさ。職業でこれだけモテ度に差が出るのはおかしい。絶対におかしい。」
「モデルになると決めたのは自分だろう? ちゃんと就活していれば、それなりの企業から内定だって取れただろうに、そうしなかったんだから文句は言えないな。」
「だって、モデルの仕事好きだったし。大学生の頃はバイト感覚だったけど、仕事として本格的にやってみたくなったんだもん、仕方ないじゃん。」


なのにさぁ……、とミロは頬をプーッと膨らませる。
好きな事を仕事にして一生懸命に働く男は輝いて見える、筈なのに。
何故、女達はそのキラキラ眩しいものに全く反応しないんだ?
そう言って、ミロはジントニックを一気に煽った。
ここまできたら、いっそヤケ酒だ。


「でも、飛鳥はシュラの学歴も、会社も、安定した収入も、将来性も、全く眼中にないみたいだよね。結局、惹かれるのは、そういうトコロじゃないって事だろう?」
「興味を持つ最初のきっかけにはなるじゃん。俺なんて、モデルってだけで『遊んでそう』とか『チャラい』とか言われて、女の子が本気で寄ってくる事なんてないんだから。」
「遊びの恋愛はいらないって訳か。」
「そ。俺も飛鳥みたいな可愛い彼女が欲しいの。彼女と家でラブラブイチャイチャしたいの。それが理想なの。」


そこまで言い切ると、カウンターに突っ伏してグデーッと上半身を伸ばすミロ。
そんな彼を見下ろし苦笑するサガ。
ディーテは変わらず艶やかに微笑みながら、キュッキュとグラスを磨いている。


「さて、と。私はそろそろお暇するとしよう。御馳走様、ディーテ。今夜も美味しいカクテルを有り難う。」
「こちらこそ、いつも来てくれて有り難う、サガ。」
「じゃ、また。ミロも飲み過ぎる前に、ちゃんと帰るんだよ。」


スマートに支払いを済ませ、スマートに店を後にするサガ。
その後ろ姿をカウンターに突っ伏したまま眺めていたミロは、「あれで古書マニアで趣味の世界に没頭さえしていなければ世界最高の男なのになぁ、勿体ない。」と、ボンヤリと思っていた。





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