プチフール的秋の味覚(山羊座)
2022/10/28 02:00


吹き付ける風がヒヤリと冷たい。
久し振りに訪れた日本は、秋の気配が色濃くなっていた。
通りを飾る街路樹も、薄らと色が変わり始めている。


「あー、秋って感じがする。」
「そうだな。」


ギリシャとはいえ山奥にある聖域は寒暖差が激しく、ある程度の四季は感じられるのだが、やはり日本ほどにはハッキリとしていない。
季節によって姿を変えていく広葉樹を見上げ、季節の移り変わりを体感出来る日本は、なんと趣深い国なのだろうと、改めて思った。


「秋と言えば……。スポーツの秋、芸術の秋、読書の秋……。」
「日本の秋は、食い物も美味い。サツマイモにカボチャ、栗、柿に梨、葡萄。それに林檎。」
「食欲の秋かぁ。いや、シュラの場合は『甘味の秋』かな。スイーツ魔人だもんね。」


隣を歩いていた飛鳥が、クスクスと笑う。
今回は任務ではなく、飛鳥の希望で日本へとやって来ていた。
実家に帰省ついでに、二人でノンビリと休日を満喫している。
ただし、聖域に戻った後の激務を思うと、げんなりとするが。


「スイートポテトにパンプキンパイ、モンブラン、梨のコンポート、マスカットタルト。そして、焼き林檎。」
「柿は?」
「干し柿とか。あ、柿ジャムも美味しいよ。こっくりとした甘さが最高。」
「ヨーグルトにでも入れて食うのか?」


そういえば、飛鳥の実家の和菓子屋に、柿の形を模した上生菓子があった。
美しく繊細な和菓子は、季節のうつろいまでも、その小さな形の中で表現する。
柿の他にも、銀杏に紅葉、キノコと、視覚から秋を感じさせてくれる甘い菓子。
飛鳥の祖父、あの無口な老人が作る小さな秋の世界は、どこか柔らかで暖かだ。


「柿って、意外にもクリームチーズと合うんだよ。クラッカーにクリームチーズと柿ジャムを乗せたカナッペとか、想像しただけで美味しそう。」
「フッ、飲みたくなってきたな。」
「スイーツ魔人ならぬ、飲兵衛魔人シュラですか。」
「酔っ払い抱き付き魔には言われたくないが。」


飲兵衛などと言われるほど俺は強くない。
アイオロスのようにガバガバ飲みはしないし、カミュのように酒豪でもない。
程良く気分が高揚して、程良くストレスが発散出来れば、それで十分だ。


「よし、柿を買って帰りましょう。クリームチーズと、クラッカーも。あと、生ハムメロンならぬ生ハム柿も美味しいらしいから、生ハムも買って、色々試してみましょう。勿論、ワインもね。」
「ワイン? 日本酒じゃないのか?」
「柿おつまみは、白ワインに良く合うって聞いたよ。」


そうなのか……。
まぁ、つまみも色々と試すなら、酒も色々と試すのもありだろう。
酔い潰れない程度に色々と試して、甘くて美味い柿を堪能し、そして、その後は……。


「ムッツリスケベ。」
「……は?」
「今、思いっ切りスケベな事、考えてるでしょ。顔を見れば分かるんだからね、シュラ。」


周りには散々、無表情だ、仏頂面だ、能面顔だと言われているが、飛鳥にだけは簡単にバレてしまう。
指摘されて、俺は片眉を上げつつ肩を竦めた。
冷えた手、指先、風に浚われる首筋。
秋風に冷えた身体には、美味い酒と美味いスイーツ、そして、彼女の身体が一番の温もりなのだ。



秋の夜長と、甘い温もり



***


柿が美味しい季節ですね。
毎日、柿と和梨をモシャモシャ食べております。
山羊さまにも日本の美味しい果物を堪能していただきたいと思っていたら、こんな話になりましたw
甘いものを食べつつ、夢主さんとのイチャイチャを妄想してニヤけるムッツリ山羊さまが好きですw


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