プチフール的糖分過多(山羊座)
2021/12/31 23:27


いつの間にか眠っていた。
そんなに疲れていたのか……。
横たわっていたソファーの上で身を起こすと、腹の上に伏せられていた資料がバサリと音を立てて滑り落ちた。
任務前に目を通しておけと、サガから渡されていた資料が、真っ昼間の惰眠を誘発したのだ。


「あ、シュラ、目が覚めた?」
「飛鳥……。」


キッチンから飛鳥が姿を現すと同時に、甘い匂いが流れ込んでくる。
彼女が連れてきたのは、焼き立てのスイーツの香り。
甘く香ばしい焼き菓子の匂い。


「丁度良かった。ピスタチオのフィナンシェを焼いたの。味見する?」
「当然だ。」
「寝起きでも即答だね。普通は、寝起きだから胸焼けしそうなものなのに。」


飛鳥の作る菓子で、胸焼けなど起こる筈もない。
寧ろ、目覚めの理由は、キッチンから漂ってきた、この甘い匂いのためだろう。
俺の身体が、本能で甘いものを欲しているのだ。


「もう少し、ゆっくりお昼寝していても良かったんじゃない? シュラ、疲れていたみたいだし。」
「疲れなど、糖分を補給すれば直ぐに解消される。甘いものは万能の薬だ。」
「いや、スイーツはお薬じゃないし、栄養ドリンクでもないからね?」


俺にとっては栄養ドリンクなどより、ずっと効果のある滋養強壮剤といえよう。
元気も出るし、力も漲るし、やる気も増す。
甘いものに、悪い事など何一つない。


「いやいや、悪い事だってあるから。糖分の取り過ぎには気を付けなきゃ。カロリーだって高いし。」
「この世に甘味が無くなったら、俺は生きてはいけぬ。」
「そんな極端な。程々にしてくださいって、話ですけど。」


だからと言って、糖分制限をしてストレスを抱えるよりは、思う存分、食べたいだけ食べる方が、後々の後悔が無くて良いのではないか。
聖闘士である俺のように、明日、生きているか分からぬ身なれば、食べたいものを食べないまま命を落としては、余計に悔やまれる事になる。
それに、糖分過多と言われようが、大量摂取したカロリーは、日々の激しいトレーニングで十分に消費出来ている筈だ。


「はいはい、分かりました。シュラの好きなように、満足するまで食べてください。」
「良いのか?」
「シュラが心残りを抱えたままだと、何かあった後に、死仮面になって浮かび上がってきそうだもの。この宮のキッチンの壁辺りに。」
「む……。」


この俺が死仮面なんぞになるものか。
とは思うものの、飛鳥の菓子を心行くまで食べ尽くす事なく死した場合、確かに、未練たっぷり過ぎて成仏出来ない可能性はあるな。
それもこれも、飛鳥の作るスイーツの全てが、俺の好みにピタリと合致し、そして、延々と食べていられる程に美味いのがいけない。
それを失いたくない余りに、自宮のキッチンの壁に化けて出てもおかしくはないだろう。


「また、そうやって責任転嫁する。私の作るスイーツが美味しいからじゃなくて、シュラの意志が弱いだけでしょ。甘いものへの抵抗力が皆無だよね、シュラは。」
「人を糖分依存症みたいに言うのは止めろ。」
「糖分依存症でしょう、誰がどう見ても。」


ならば、飛鳥から離れられないのも、彼女を手放せないのも、糖分依存症のせいだな。
この世で飛鳥以上に甘美なものなど、俺は知らないし、あるとも思えない。


「そうだな。フィナンシェの味見の後は、勿論……。」
「何ですか、その目は? 何やら嫌な予感がしてならないんですけど?」
「この世で最上級のスイーツの味見をしようかと思っているだけだ。」
「わ、私は、まだキッチンの後片付けが終わってないので……、わわっ?!」


危険を感じ取ったのか、タジタジとしながら後退りする飛鳥を素早く捕まえ、ガッチリと腰に腕を回す。
良し、これでもう逃げられないな。
今日は俺が満足するまで、飛鳥の作ったスイーツも、スイーツのような飛鳥も、たっぷりと味わい尽くそうか。



極上のスイーツで満腹



(……おかしい。どうして、こうなったんだろう?)
(お前が甘い匂いを纏ってるのがいけないのだろう。)
(だから、それが責任転嫁だって!)


‐end‐


今年最後の更新は、相変わらずの甘味魔人でムッツリスケベな山羊さまでしたw
糖分と夢主さんがないと生きていけないらしいですよw
長期の任務の時は、どうしてるんでしょうね(苦笑)


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