プチフール的星空観察(山羊座)
2021/10/24 01:41


サガの付き合いで書類整理をしていたせいで、帰りが随分と遅くなってしまった。
教皇宮を出た時には、既に辺りは真っ暗。
灯りが少なく、視界の悪い十二宮の階段を、気を付けながら下りていく。
聖闘士といえど気を抜けないのは、この古い石作りの階段が、ところどころ崩れ掛けているからだ。


「あ、シュラ。お帰り〜。」
「……飛鳥?」


自宮に帰り着くと、飛鳥が丁度、外出の支度を終えたところだった。
こんな時間に外出?
しかも、モコモコに着膨れている。
秋も終わり掛けて、冬が目の前に来ているとはいえ、流石にダウンコートは早過ぎやしないだろうか。
ロングのダウンコートを着込み、首にはストールをグルグル巻きにし、手に重そうなバスケットを持った飛鳥の姿を上から下まで眺めつつ、俺は首を傾げる。


「何処かへ行くのか? 何をする気だ?」
「ちょっと星空観察に行こうかと。」
「……は?」
「寒くなって空気が澄んできたから、星が凄く綺麗に見えるでしょ? だから、ココの屋上に上って、星空を眺めてみようかと思って。」


足元ばかり気にして、ちゃんと見てなかったが、確かに、夜空に星がキラキラと瞬いていたな。
今日は、天気は良かったが、気温もかなり低かった。
ギリシャといえど山奥にある聖域は、季節による気温の変化も大きい。
しかし、飛鳥は、どうやって屋上に上がるつもりだったのか。
どの宮もそうだが、屋上に人が上るようには作られてはいない。


「前にシュラと一緒に上った事があったから、大丈夫かなぁと思ったんだけど。」
「大丈夫ではない。帰宅がギリギリ間に合って良かった。」
「そんなに危険だったかな?」
「俺が誘導したから、何事もなく上れたんだ。そこで少し待ってろ。支度をしてくる。」


飛鳥を一人で行かせる訳にはいかない、屋上など危ない、危な過ぎる。
慌てて防寒着を着込むと、飛鳥を誘(イザナ)い、外へ出る。
以前は彼女を導きながら、宮の内部から壁などを伝って屋上へと出たが、あの時は昼間だった。
視界の悪い夜ならば、正直、この方が早い。
バスケットを抱えた飛鳥を俺が抱え、ひとっ飛びで屋上へとジャンプした。


「おおっ! 黄金聖闘士のジャンプ力、凄い、吃驚!」
「足元、気を付けろよ、飛鳥。」
「大丈夫。ライト、持ってますから。」


腰を落ち着けるのに良さそうな場所を選んで、敷物を敷き、膝掛けを取り出す。
寒さ対策にピッタリ寄り添って座れば、ライトの出番は終わりだ。
再び訪れた暗闇の中、見上げれば、世界を覆い尽くしてしまいそうな満天の星々が降り注いでくる。
この世界に暗闇などないのだと、高圧的に説得されているような気分になる程に、それは圧倒的だ。


「綺麗だねー。一瞬、言葉が出なくなっちゃった。」
「そうだな。」
「日本じゃ、こんなに凄い星空なんて見られないもの。ホントに貴重な経験。」


吐き出す二人分の息が、時々、薄っすらと白く視界を曇らせる。
ピリリと肌を刺す寒さの中、寄り添う相手の熱を感じて過ごす幸福。
腰に回していた腕に、より強く力を籠めようとした、その時、飛鳥がゴソゴソとバスケットの中を漁り出した。


「はい、どうぞ。」
「これは?」
「ホットサングリア。身体も温まるし、こんな綺麗な星空を見ながら一杯だなんて、何だかとっても贅沢でしょ。」
「満天の星空がツマミか……。確かに、こんな贅沢はないな。」


渡されたマグボトルから立ち上る、白い湯気と、甘酸っぱい香り。
たまには、こういう癒しも良いのかもしれない。
非日常の風景の中、愛しい飛鳥と寄り添い合える事が、俺にとっては何よりの贅沢なのだ。



二人の世界に暗闇なんてない



(さて、身体が冷えたな。ベッドに直行しようか。)
(え? 温まるならお風呂でしょ?)
(いや、ベッドだろ。)


***


最後は安定のムッツリスケベ発動の山羊さまです(苦笑)
折角、ロマンチックになったというのに、ぶち壊しですよ、山羊さま……。


‐‐‐‐‐‐‐‐

([←]) * ([→])

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -