聖域リーマン物語51
2020/10/11 01:42


「試してみるか?」
「……え?」
「その程度なら俺はビクともしないと、証明してみせる。」


今夜は飛鳥に手は出さず、一晩、耐え切るつもりのシュラだったのだが。
こんな話をされて、しかも、あんな風に自分の体躯を眺め、感嘆の溜息を吐かれたなら、黙って耐えるなど出来そうもない。
自慢の身体を誇示したい衝動は抑えられず、思わず誘いの言葉が口から出ていた。


その後の事は言わずもがなだ。
頬を赤らめた飛鳥は恥じらいながら、それでいて、しっかりと頷き、二人はシーツの波に飛び込んだ。
そして、シュラは我を忘れて彼女との行為にのめり込んだ。
それまで好奇心だけで抱いてきた女達とは、まるで違う。
好きになった相手との行為は、こんなにも衝撃的で興奮するものなのかと、この時、初めて知ったのだ。
どうにも抑え切れない欲求は尽きる事なく、この夜は飛鳥の華奢な身体に、相当の負担を掛けてしまった。


「飛鳥のお陰で、シュラの女食いも治まった事だし、良かった良かった。」
「本当に、そう思っているのか、ディーテ?」
「思っているさ。幼い頃から知っている可愛い女の子に手を出された恨みよりも、正直、一生彼氏が出来なくてもおかしくないくらいのトラウマ持ちの飛鳥に、ホクロの数まで知り尽くしている幼馴染が彼氏になってくれたんだ。兄のように思っている私にとって、これ以上ない安心な相手だろ、キミは。」


返事の代わりにフンと鼻を鳴らすシュラ。
それを横目で眺め、片眉を上げるカミュと、眉を顰めるリア。


「俺は実直で一途だからな。」
「どの口が平然と、そんな事を言えるんだ、シュラ。」
「事実を言っているまでだ。俺は飛鳥以外の女に興味はない。」
「以前の事はともあれ、飛鳥と付き合ってからは、他の女の子には見向きもしなくなったからねぇ。実直は兎も角、一途は当たってるのかも。」
「元より見向きなどしていない。寄ってくる女を味見していただけだ。」
「昔の事とはいえ、最低だな、シュラ。」


カミュとリアから送られる氷点下の眼差しにも全く動じず、シュラは涼しい顔で眼前のグラスを傾けた。
しかし、こんな男でも運命の相手に出逢えたのだ。
確かに、シュラ達の場合は非常に特殊で、参考には全くならないかもしれない。
それでも彼等のような出逢いもあるのだと思えば、自分も何処かで運命の相手に出逢えるのではないかと、淡い期待がリアの胸の奥に浮かんできた。


「だからって、何の行動もなしに、素敵な出逢いが訪れるなんて事は無いよ。」
「そ、そうだろうか……。」
「そうだな。ミロとか、デスとか、誰でも良いから友人に、女の子を紹介してもらう事から始めなければならぬだろう。あるいは合コンに行くとか。」
「女を紹介してもらうより、まず兄離れをする事が先じゃないのか。あれが傍に居る限り、彼女と長続きする事は無理だぞ。」
「好きで離れない訳じゃないんだがな……。」


正確に言うと、『兄離れ』ではなく、『弟離れ』だ。
リアとしては兄から離れたいと前々から思っているのだが、兄であるロスが、自分の傍から離れる事を絶対に許してくれない。
一人暮らしなんて以ての外。
彼女が出来ようが、所帯を持つ事になろうが、一生、リアと一緒にいる気満々だ。


「彼女を作るより、兄さんから離れる方が難しい気がする……。」
「そうへこむな、リア。頑固者のロスといえど、可愛い弟が根気強く頼み込めば、いつかは許してくれるのでは?」
「無理だな。頭を下げれば下げる程、懇願すればする程、意固地になるぞ、あの男は。」
「確かに……。」


今のところ、リアの将来には暗雲しか見えない。
いつになったら目の前に晴天が開けるのか。
リアは深く大きな溜息を吐き、新しく差し出された強めのカクテルを一気に飲み干した。


(つづく)


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