となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ6
「やっと見つけた」

しばらく歩き回ってもうすっかり暗くなった河川敷にトト子が座っているのを見つけた。

「なまえ…」

私を見上げるトト子の顔はどこか寂しそうで、私はその隣に腰をおろすと俯いたトト子の顔を覗き込む。

「トト子ちゃん、みんな心配してるよ。もちろん私も」
「……。」

トト子は私の方を目だけ動かしてちらりとみるが、何も言おうとはしない。すると隣のトト子がこてんと私の方に体を倒してきた。

「寂しかったね」
「…さみしいとかないもん」

手を回してトト子の体をぎゅっと抱きしめて、それから頭をぽんぽんと撫でてあげる。

「私にはなまえがいるし」
「ふふ、そっか、そうだねぇ」

そうやってしばらくトト子の頭を撫でていたが、彼らに謝らせないと仕方ないので、トト子の体が倒れないように立ち上がる。トト子も私が彼らを呼んでくるのを分かっているのか何も言わなかった。

(やっぱり、泣いてくれないよね)

私が慰めて泣き腫らしてくれればいいのに、トト子の目からは涙はこぼれなかった。

河川敷を登っていくと少し離れたところから6人+1人の影が歩いてくるのが見えたので近づいていき、トト子の場所を教える。トド松がトト子ちゃんのところに向かうので、残った人の中からそっとおそ松の顔を伺うと薄暗い中で私とぱちりと目が合った。

「あーなまえ。ごめんな、さっき」
「え?」
「俺もちゃんと謝るから大丈夫」

おそ松が近づいて来て私の頭にぽんと手を乗せ「心配かけてごめんな」と私の顔を覗き込んで言った。

「分かってくれたなら、よろしい」

おそ松に微笑み返すと、川の方から人が歩いてくる音が聞こえた。そちらを見るとトト子が一人で登ってきて、その後ろをトド松がゆっくり追いかけている。あれ、これはだめだったのか?

登りきったトト子が私たちの前を通ろうとすると、きんちゃんが前に出ていた。トト子もびっくりして立ち止まる。

「みんなから事情を聞いたんだけど、たぶん私が明日地元に帰っちゃうから都合をつけてくれたみたいで…」

きんちゃんが話し始めるとトト子が何のことかわからないといったふうに「かえる…?」と繰り返す。するとチョロ松が「きんちゃん今親戚の家に遊びに来てて明日には帰っちゃうからどうしても今日しか日がなくて…」と付け足した。

「てか、ちゃんとそう言えばよかったな。トト子ちゃんごめんね?」

おそ松もさっき私に言った通りちゃんとトト子ちゃんに謝り、続いてきんちゃんもトト子の前で頭を下げていた。

「ごめんなさい!そっちが先だったのに約束取っちゃって…」
「いや別にきんちゃんが謝ることじゃないから!」

頭を下げるきんちゃんにびっくりしておそ松が言う。するとみんなに謝られて唖然としていたトト子の目からぽろぽろと涙が零れてきた。

「うわあああん!!なんで…なんで謝るのぉ」

そして涙はどんどん溢れ出て、滝のように涙を溢れさせながらトト子は歩いていってしまう。

「トトぴ……」

六つ子たちは状況がまったく理解出来ず、「ええ…なんで…」「全然わかんない」と口々に呟いていた。

私は多分その場で唯一トト子の恥ずかしさだったり悔しさだったりというどうしようもない気持ちをダイレクトに理解していたので、泣きながら帰っていくトト子の背中をずっと見つめていた。

「あのう、ハニー?」
「なに、カラ松くん」

トト子の背中を眺めている私に向かってカラ松が話しかけるので私は彼の方を振り返り、その顔を見つめた。

「今更なんだが、その格好は…もしやカラ松リスペクトか?」
「へ?」

言われて見てみると、私は革ジャンにサングラスを頭にかけていてまさにカラ松リスペクトと言われてもおかしくない格好をしていた。

「あ〜これはまあ変装でトト子ちゃんに着せられたんだけど…」

期待に満ち溢れたキラキラした瞳で見つめてくるカラ松に気圧され「カラ松くんとおそろコーデだね」と微笑むと、キラキラの瞳をさらにパァっと輝かせていた。

次の日、きんちゃんのお見送りをする時間と場所をトド松から教えてもらい、トト子と一緒に駅に向かった。トト子は自分の店の冷凍庫から極上のマグロを選び、抱えると、餞別にと駅まで持って走った。

昨日とは打って変わって笑顔のトト子に私もホッとして、トト子ちゃんが元気になってよかったと100キロくらいはありそうなマグロを一人で抱えるトト子の背中を追いかけていた。

駅の階段を登りきると、六つ子たちに背を向け改札に向かって歩くきんちゃんの姿が見えた。

「トト子ちゃーん!」

六つ子たちは大変嬉しそうに声をあげるが、トト子はそれを無視してきんちゃんのところにいく。あとから私が登ってくるのを見て、カラ松が私の方に手を広げるのでそのまま飛び込むと、自分でやっておいて私の行動にびっくりしたのか「あ、あわわ、なまえ…?」としどろもどろになりながら体を震わせていた。

トト子が昨日のことを謝ると、きんちゃんもいやいや私こそ…と二人で謝り倒していて、駅の改札前で二人の女の子(一人はマグロを担いでいる)が土下座し合うというシュールな光景が広がっていた。いや、みんな見てるから…。きんちゃんが改札を通り、こちらを振り返る。

「みんなー!ありがとう!トト子さんも、お魚ありがとうございます!」

私たちはそんなきんちゃんに「またね!」「気をつけてね〜!」と手を振りながら口々に答えた。

「カラ松くんも彼女さんとお幸せに〜!なまえさんもお元気で!」

きんちゃんが最後にそんなことを言うので、隣でカラ松が「ええっ!?彼女!?だれ!?」と動揺する。私はそんな彼の脇腹を肘で小突くと「いや、私のことでしょ。なんでわかんないかなぁ」と睨みつけた。

「え、ええ!?!?なまえとオレって付き合ってたのか……」
「付き合ってないって言うならいいですけど」
「え!まてまて!ストップ!付き合う!付き合います!!」
「もーだめでーす。時間切れ〜」
「のんのんのん!たのむよ、はにー!」
「のーはにー」

半泣きになりながら「たのむよ〜」と私の腕を掴むカラ松はよそに他の六つ子たちは「行っちゃったねぇ」「また夏休みとかに遊びに来ないかなぁ」などと余韻に浸っている。すると後ろからドス黒いオーラを感じ、思わず身震いをして振り返った。そこには鬼のような顔をしたトト子がいて私は「こいつら終わったな」とまた手を合わせて言った。

「いい!?分かってる!?きんちゃんは許そう!いい子だったからね!だがしかし……だがしかーし!!!」

案の定、トト子ちゃんの部屋で説教タイムが始まり、六つ子たちはトト子ちゃんの前で土下座を繰り返していた。私はそんな六つ子たちを眺めながらトト子の後ろに座っている。

「あなた達の隣には、弱井トト子という最強のはかわい子ちゃんがいるの!!なんならなまえも!!」
「いや、トトぴ、それは言わんでいいよ…」

突然私の名前が出されるので巻き込まれたくない私は訂正した。

「んなぽっと出にホイホイ目移りしないで!!!」

トト子が怒鳴りつけると、六つ子たちが手を大きく振り上げてトト子の前にひれ伏す。いやこれなんの宗教…。

「トト子が一番!」
「はは〜!」
「圧倒的!」
「はは〜!」
「かわいい!」
「はは〜!」
「いやこれ、私は何を見せられてんの?」

いたたまれなくなって声をかけるが、トト子さまのお耳には届かず、「なまえは黙って見てて!」とのお達しである。 するとおそ松がそうっと顔を上げ「あのぅ」と挙手した。

「ちなみに今後この中の誰かと付き合う可能性は?」
「え?まあ…それはないかな。」
「ははー!」
「私にはなまえがいるしね?」

そういうとトト子が私の顎に手を当てて、クイッと持ち上げる。

「え、ええ…トト子さん…?」

私がトト子を見つめてそういうと、トト子の顔を近づいてきて咄嗟に目をつぶった。

「おお〜〜!!!」

と何やら六つ子たちから期待のこもった声があがる。

「ま、待て!トト子ちゃん!!」

ふいに聞こえた制止の声に目を開けるとそこにはカラ松が立っていて、右手を前に突き出して仁王立ちで叫んでいる。

「なまえのファーストキッスは…オレが頂くんだ…。トト子ちゃんと言えど、それは譲れない」
「ええ…カラ松くん…」

私は突然の告白に顔を真っ赤にしてカラ松の方を向く。トト子は機嫌が悪そうにそっちを睨みつけていた。

「なぁに、カラ松くん。好きなの?なまえのことぉ。じゃあ早く告白しなよ。いるよ、ここに〜〜」
「え、い、いや、それはまだ早いというか…」

途端にしどろもどろになるカラ松。
私は顔を真っ赤にしながらも意味のわからない発言をするカラ松を怪訝な目で見ていた。

「いや、もうさっきの告白みたいなもん…」
「いいのぉ?そんなモタモタしてるとなまえが他の誰かに取られちゃうかもよ!」
「ええ!!そうなのかなまえ!?!?」
「いやそれ本人に聞いちゃう!?」

私が驚いて言うと、三男や末弟も「いやもうダメだなこのオトコは」「ほんとにポンコツだよねぇ」と呆れ顔で口々に言っていた。

「よしわかった!じゃあなまえおれにしとけば?」
「何がわかったのか全然わからない!」

にへらと笑って自分のことを指さすおそ松に、首をぶんぶん横に振りながら答えようとするが、いつの間にかトト子に顔をホールドされていて動けない。

「トト子だよねぇ?なまえ〜?」
「俺にしとけよぉ〜。一生遊んで暮らそぉ?」

右には顔面をホールドしているトト子。そして左からはいつの間にか近づいてきたおそ松が私の膝に寝転がってごろごろと頭を動かしていた。

「いやこれどういう状況!?」

助けを求めるも、チョロ松からもトド松からも果てには一松からも目を逸らされ、誰とも目が合わないどころか、十四松が「あー!おそ松兄さんずるいっす!僕もゴロゴロ〜!」と言ってものすごい勢いで私の膝に突っ込んでくる。

「いてえよ!何すんだよ、十四松ッ!」
「ええ〜だめすかぁ。へこみぃ〜」

ショボーンと項垂れている十四松が可哀想になってよしよしと頭を撫でてやる。横から「やーん!トト子もぉ!トト子も撫でて〜!」「えっ!?じゃあ俺も!俺も撫でて!いいよな!?」とうるさい二人が私の両手を引っ貼り合う。

「離すんだブラザーたち!アンド、トト子ちゃん!」

カラ松には珍しく、強引にトト子おそ松十四松の3人を私から引き剥がし、カラ松の顔がぐいっと私に近づいてきた。私の両手をカラ松が握る。真剣な表情で見つめられ、そのまっすぐな瞳に私の心臓がどくんと跳ね上がった。

「なまえ…」
「か、からまつ…くん…」

どくんどくん。私の心臓の音がやけにうるさく感じる。周りでぎゃーぎゃー騒いでいた声も、しんと息を潜め、私とカラ松の様子を伺っているようだった。

「お、オレのことも撫でてくれ…」

カラ松の口からその言葉が聞こえた瞬間、息を潜めていた弟たちは、いっせいに爆笑し、床をバンバンと叩いたり転がり回ったりした。

「ギャハハハハ!!!馬鹿だ!馬鹿だこいつぅ!!」
「な、撫でてくれ…ひゃー!アハハハハ」
「な、なぜ笑う!!!!」

カラ松が頭に乗せていたサングラスを投げ捨て、転げ回っているおそ松とトド松に詰め寄るが、二人はカラ松の顔を見るなりヒーヒー言うほど笑っていた。

「姉さん、これはまだ時間かかりますぜ」

いつの間にか私の隣には一松がいて、兄や弟たちのそんな様子を見て私に言った。私は顔を真っ赤にして怒っているカラ松を眺めて「うん、私もそう思う」と苦笑いをしていた。
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