となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ5
「えっと……これにはちょっと事情があってね?」

居酒屋について座ったものの誰も話し出さない最悪の雰囲気を割ったのはチョロ松だった。テーブルにはまだビールとお通ししか並んでいないが、トト子のビールはさっき一気に飲み干してしまったためもう空になっている。テーブルの両端にトト子ときんちゃんが座り、壁側のトト子に近い方から順に十四松、一松、チョロ松、反対側のトト子に近い方からトド松、カラ松、おそ松が座っていた。店に入った時、トト子の隣に座るべきか、逆にきんちゃんの近くに座るべきか迷っていると、カラ松が自分の隣をとんとんと叩いてこっちを見るので、カラ松とおそ松のあいだに座った。

「どっちを優先したとかでは全然なくて…」
「いいのぉ別に怒ってないから、みんなが誰と遊ぼうと〜別に私は彼女じゃないし〜?」

チョロ松が説明をするのだが、トト子は機嫌を損ねたままで続けた。

「そりゃこっちのデートのほうがいいよねぇ、荷物持ちなんかさせる可愛くない女なんかやだよねぇ」

トト子は自分のことを可愛くないなんて微塵も思っていないのだが、そういうとチョロ松が「ええっ!トト子ちゃんは超絶かわいいから!!」と言い返し、トト子がそれにまた「可愛くないよ」と返すので六つ子たちが口々に「かわいい!」と繰り返し、トト子もまた可愛くないと言い返す。

「かわいくないー」
「うん。ぜんぜん可愛くない」

私の隣からありえない言葉が聞こえてきて、隣を見ると、他のみんなもいっせいにおそ松のほうを見ていた。いやいや、なにを言ってるのよお兄さん。ここは穏便に終わらそうよ〜!君そういうとこだよ〜!と私が冷や汗をダラダラかいているとおそ松が続ける。

「どーしたの、トト子ちゃん。ドタキャンそんな怒ってんの?今日なんか変だよ」

ああああ!言っちゃった!全部言っちゃったよこの人!私が内心とても焦っているのと同じように他のニート達もダラダラと滝のような汗が吹き出しているのが分かる。と、途端にトト子が立ち上がり、私は卓をひっくり返すのかおそ松に掴みかかるのか、次の行動をじっと見ていたのだが、トト子はそのどちらもせずに暖簾をくぐって店を出ていってしまった。

「あ……トトぴ!?どこ行く…」

呆気に取られていた私はトト子が戸を閉める瞬間にその背中に向かって言うのだが、ピシャリと戸を閉められて、その言葉が届くことはなかった。

「え……」

何もしなかったトト子に六つ子も唖然としていてトト子が出ていった戸を見つめている。

「いやいやおそ松!なんでああいう余計なこというの!!!」

ハッとして私は隣にいたおそ松の胸ぐらを掴んで振り回した。

「あそこはなんか穏便に済まそうよ!あなたはそういうとこだよ!」
「はぁ〜?だって意味わかんねぇもん」

私と目を合わせたままめんどくさそうにおそ松は言った。

「意味わかんないって……ほんとに女の子の気持ちが分かってないんだから!」

おそ松の胸ぐらを掴んでいた手を離す。おそ松はこういうところなんだよなぁ。こういう時に的確なことを言っちゃうから、女の子はどうにもならなくなるのよね。

「あ、なまえ…どこに…」

いそいそとサンダルに足をねじ込む私の背中にカラ松が言う。

「どこってトト子探しに」
「俺らも行こうか?」
「行こうかっていうか、来て欲しいけどトト子がどんな様子か分からんからまた連絡する」

サンダルを履き終え、カバンを持って暖簾をくぐろうとするとまた後ろから「なまえちゃん!」と止められた。

「今度は何?」

振り返るとバツが悪そうにしたトド松が「トト子ちゃんのぶん払ってくれない?」と手を合わせて言う。私は片手で頭を抱えて伝票を取り、全員分の会計をした。
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