となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ4
デパートから出てきて、このあとどうするか考えていると六つ子たちが出口の自動ドアに向かって歩いてくるのが見えて急いでドアの前を離れた。トト子がどこから持ってきたのか新聞を取り出し、大きく広げる。私はその新聞に隠れるように入るのだが…いやこれ絶対無理あるよ。

「トト子さーん、これ絶対無理ある」
「なまえ〜。私たちなんだか近いねぇ」

メガネをズラして少し顔を赤くしたトト子が私をみた。いやそうではなく…。

私たちが意味の無い変装をして座っていると、デパートの入り口の前で話していたチョロ松が不意にこっちのほうを指さした。すると残りの5人と女の子もこちらをみる。

「あーいやいやいやこれバレてますわ、姐さん」
「しっ!なまえ!バレてないバレてない」
「いやバレてるっ!」

そしてそのまま六つ子たちが歩き出し、トト子があろうことか「行くわよ、なまえ!」と再び尾行をはじめた。歩いている六つ子がこちらを振り返るとトト子がサッと新聞で顔を隠すのだがそもそも私は全然隠れていないので、やっぱり無理があるよこの尾行。六つ子たちが電車に乗り、トト子がすかさず同じ車両に…とあろうことか荷物置き場に登った。私はさすがに登れないので六つ子たちの向かい側の椅子に座り、上から六つ子たちを見下ろしているトト子をヒヤヒヤしながらみていた。サングラス越しにトド松くんと目が合い、口パクで「これどういう状況!?」と聞かれるが、私が聞きたいくらいなのでサングラスを少し下げて「わかんないよ〜!」と目線を送る。私も困惑していることが分かり、トド松くんは私とトト子ちゃんを交互に見ていた。カラ松のほうを見るとこれもまた驚きなのだが私に全く気付いておらず、荷物置きのトト子ちゃんだけが気になっているようだった。いや気づけよ。

それからも動物園ではシマウマの着ぐるみを来て中に入り、ゲームセンターでヒツジの着ぐるみをきて機械に入り…。

「いやもうこれ無理があるよトトぴ〜!!」

半泣きで訴えるのだが私の訴えは全く聞き入れられず、トト子は自動販売機の変装をして、公園に入っていく六つ子たちを先回りして待ち構えていた。全力疾走で公園に入り、息を荒らげてそのまま原っぱに体を投げ出す彼らをみてさすがの私も「ご愁傷様…」と少し離れたところで手を合わせていた。

「めちゃくちゃ怒っているぞアレは!」

カラ松が言う。いや私も怒っているぞ。トド松くんがチョロ松くんに飲み物をせがむと「自分で買え」と言いながらも立ち上がってそばにあった自販機に近づいた。あ〜チョロ松くん、それは…。

「うわあああ!!」

案の定チョロ松くんが悲鳴をあげる。チョロ松が小銭を入れようとした自販機はまさにトト子が変装をした自販機だった。

「も、もう勘弁して!悪かったよトト子ちゃ〜ん!」
「わたしはトト子じゃありません。自動販売機です」

自動販売機に向かって土下座をする六つ子たちに唖然としている様子の女の子に、見兼ねて近づいていく。さすがに格好が怪しすぎるのでキャップを外して、サングラスをはずすと頭に乗せた。

「あーあの、きんちゃんですよね?」
「あっはい…あなたは……」
「うーん、えっと、カラ松のカノジョ」

話すと長くなるので大分はしょり、勝手に付き合い、自己紹介をした。案の定女の子は「ええっ!?カラ松くんって付き合ってる人いたんですか?」と驚きの声を上げる。

「私と出かけちゃって大丈夫でしたか…?」
「あー、うん大丈夫よ」

6人がトト子に土下座を繰り返す様子を眺めながら返事をする。

「でもちょっとあの自販機ちゃんは大丈夫じゃないから、ちょっとややこしいことになるかも」

そういうとその子はキョトンとしていたが、案の定公園で土下座されて終了するトト子ではない。場所を移動することになり、私たちは居酒屋へ向かうことになった。と、その前に私ときんちゃんが隣合って話しているにも関わらずトト子にビビりすぎて私の存在にまったく気付いていない男、カラ松。この男をなんとかしよう。

「カラ松くーん」
「うわああああ!!」

後ろからにゅっとでてきて話しかけると、カラ松は漫画のように飛び上がって驚いた。

「え……なまえ?なにしてるんだ…?」
「なにしてるんだじゃないよねぇ、これ浮気だよねぇ、ちがうかなぁ」
「ああっ!ちがうんだ!なまえ!東京を案内してただけでっ!」
「ちがわなーい!内緒にしてるところが怪しーい!」
「あぁ、はに〜〜許してくれよぉ〜」

私の足に絡みついて、目に涙を浮かべたまま引きずられているカラ松は居酒屋に向かっている間もずっと謝り倒していた。しかし私たち以外の雰囲気は険悪で、ニート達は滝のような汗をかき、トト子は自販機のままムスッとした顔で歩いている。きんちゃんはとても不安そうな顔をしてみんなの後ろを歩いていた。私はそうっときんちゃんに近づくと「きんちゃん、大丈夫だからね。あのーなんか巻き込まれちゃってるけど、心配しなくていいから」と耳打ちする。きんちゃんは私の言葉に少しだけ安心したのか頬を緩ませて笑った。
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