となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ3
次の日、トト子は街を大股で闊歩していた。

「ふーんだ!トト子との約束をドタキャンするなんてばかだなぁ。ま、いっか、たまには自分で荷物持ってみよ〜」
「いや自分でってゆーてますけど、これ私荷物持ち要因すかね」

出かけてすぐに「寒いかと思ったらなんかあつーい!」と押し付けられたトト子の上着を抱えながらいうと「えー!ちがうよぉ!今日はぁ、なまえとショッピングしてぇ、クレープ食べて自撮りしちゃったりぃ、プリとかぁ、ちゅうプリとかぁ、撮っちゃったりなんかしてぇ〜!きゃぁ〜えへへへへぇ」と一人で楽しそうなので私は苦笑いをしながらもトト子ちゃんが楽しいならそれで…とトト子の隣を歩いていた。

「ん?あれ、え、なんで?」

目の前を歩いていたトト子が急に立ち止まる。ぼけっと歩いていた私はそのままトト子の背中に突っ込み、驚いて顔を上げた。

「わあ!トト子どうした?てかごめんねぶつかって……んん!?」

トト子が見つめている道の反対側には、まさに昨日トト子との約束をドタキャンした六つ子たちがいた。

「あれ、ニート達…?なにしてんだろ」
「昨日言ってた急用って…」

トト子が呟く。自分より優先した急用とやらが気になるのだろう。トト子は彼らと付き合う気は微塵もないのに、やっぱり女の子なんだなぁ、とどこか寂しそうな顔をしているトト子をみて私は考えていた。

「ハッ!!?なまえ!みて!あれ!」
トト子が突然大声をだす。
「え?なに?」

トト子に腕をぐいっとひかれ、そちらを見ると背中を向けていた6人の間から先日みかけたショートヘアの女の子が出てきた。

「でたきんちゃん!!!」
「でたって…トト子…。ああっ!ちょっと待ってよ〜」

私を一人置いて街路樹に隠れながら、道の反対側の彼らを監視するトト子を追いかけていく。トト子を追いかけながら私も彼らの方をみると、女の子の周りをみんなが囲むようにして、楽しそうに歩いていた。カラ松が女の子の前でクルクルと回ってみせると女の子は面白そうに笑っていた。

「いやいや、はぁ〜???からまつぅぅ?」

私には内緒で女の子と会い、楽しそうにくるくると回ってかっこつけているカラ松を見てどうにもイライラしてきた。いますぐ道を渡ってカラ松を捕まえて引きずって帰りたい。そう思って近づこうとすると、突然すごい力で腕を引っ張られる。

「おおっ!?なんだ?!って、トト子か…」
「いやーありえないよねぇ、トト子との約束はドタキャンして、あれはだめだよねぇ、良くないよねぇ?なまえもそう思うよねぇ?いいの、あれ、なまえ的には。」

トト子が言う。それは私のことを心配してというよりは自分の味方をつけたいという気持ちの方が強いんだろうとは分かっているのだが、私は「まあねぇ、よくないよね、ドタキャンはね」と口を合わせた。

「まあまあ、わかるよ?モテないみんなからすると、トト子はちょっとレベルが高すぎるんだよねぇ」
「まあね、そうね」
「だからああやって庶民ターゲットに変えたとぉ、うんうん、しょうがないよねぇ、トト子可愛すぎるもんねぇ〜!」
「トト子ちゃん…周りの人見てるから…」

完全に自分の世界に入ってしまっているトト子の肩を叩いて言うが全く聞こえていない。

「トト子ちゃん、もう行こうよ。ずっと後つけててもしょうがないし…」
「だめよ!ちゃんと見守ってあげなきゃ!童貞たちがちゃんとやって行けるのかを!」
「いやそれ自分が見たいだけ…」

止めようとするが、さすがマイペースお姫様。私の意見には全く聞く耳を持っていない。私の腕をぐいぐい引っ張って、六つ子の後を追いかけていく。しばらく歩いているとミックスジュースのお店で立ち止まり、みんなで楽しそうに購入したジュースを飲んでいた。

「たのしそう…妥協したかいがあったね、うんうん」

またしばらくいくと公園に入り、女の子を挟むようにトド松くんとおそ松くんがベンチに座り、その後ろに4人が立ち、談笑を始めた。

「距離近い、相手が庶民だと緊張しないのかぁ、うんうん」

トト子は六つ子たちのすることなすことに全てコメントを入れるのだが、隣の私は「カラ松くんが隣に座らなくてよかったぁ」と内心ホッとしていた。しかし確かに距離は近い。いつもトト子と歩く時は隣というより一歩後ろだし、出会ったばかりの彼女と、付き合いの長い幼馴染の彼らがあんなに楽しそうに近い距離で笑っているのを見ると複雑な気持ちになるのも良くわかる。第一私は今すごく胸の奥がモヤモヤしている。

それからまたしばらく六つ子と女の子の後をつけていた。六つ子たちがデパートに入る頃には私はもうぐったりしていて、大層機嫌が悪かった。

「もおートト子帰ろうよーやだよ、好きな人と知らない子が遊んでるのを尾行するのぉ」
「あーん、なまえ〜!そうだよねぇ、いやだよねぇ?わたしにする?わたしにしとく?」
「いやそうじゃなくて…」

私だったらたぶんそのまま突っ込んで行って、カラ松くんを引きずって帰れるのだが、トト子はそうは行かないのだろう。嫉妬しているわけではないし、執着しているとは思われたくない。そんなオンナ心というか、トト子心というか。デパートに入り、女の子が洋服を試着するのを待っている六つ子。そしてそれを棚の影から見ている幼馴染。いやこれどんな構図だよ。トト子がこそこそと体制を低くして隠れている横で私は普通に立って全く興味が無いといった風にトト子が帰る気になるのを待っていた。

「トト子ちゃぁーん、もういいんじゃない?帰ろうよ〜」
「なまえ!ちょっとこっちきて!」
「わっ!?」

またトト子に手を引っ張られ、その店をでる。もう今日はトト子に腕を引っ張られて、腕が抜けそうだよお、とトト子との約束をドタキャンした彼らに心底怒りが湧いてくる。私の負担も考えろって。

「はい、なまえ!なまえはこれね!あと、これ!」
「え、え?なにこれ…」

ぼすっと乱暴に被せられたのは青いキャップで、更に大きめの革ジャンにサングラスに…ってこれどこかの誰かさんコーデじゃないですか!?

「変装よ!」
「いや変装って…帰りましょーよトト子さん。これもう本格的な尾行になってきてますぜ」
「きゃー!うんうんなまえ似合ってるぅ!ほんとは普通にデートしたいところなんだけど…今日は我慢我慢。男装も行けるじゃなぁ〜い!」
「あーうん、なんか褒められてんのね?」

顔のしたで拳を2個、ぶりっ子のポーズで目をキラキラさせたトト子は私に変装用具を渡すと自分も帽子を深く被りサングラスをつけると、さらにマスクをつけた。

「どう?これでトト子だって分からないでしょ」
「え?いやいやトト子ちゃん、本気で言ってる?」
「え?トト子本気だよぉ?」
「いや、わかるよすぐに」

実際トト子がいつもは絶対着ないような地味な色のメンズの服をきてメガネにマスクをつけたところでもう十年以上の付き合いの私たちが見ればすぐに分かってしまうのだが、トト子はそれを本気でやっているので、難しい。

「ええ〜!やっぱりぃ?トト子の転生のカリスマ性がでちゃうかなぁ?」
「いやそうじゃなくて付き合い長いのが問題」
「それともぉ、なまえとの愛ゆえかなぁ」
「いや…聞いて…?」

その格好でぶりっ子されるとすごくシュールだよ、トト子ちゃん。周りの人もみてるよぉ…。とりあえず周りからの目線が気になった私はトト子の腕を引っ張り、デパートをでた。

「あん!なまえったら大胆〜」

後ろでなんか言ってるけど、ほっとこう。
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