となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ2
トト子の家に上がらせてもらい、2階に上がってトト子の部屋でその日はなんだかんだでお泊まりをさせてもらった。なんだかトト子は凄く浮かれているようで、私も女の子の家でお泊まりというと小さなイベントごとなのでトト子ほどじゃないが少し浮かれていた。

「なまえはトト子のベッドで寝てね!」
「え、いいよいいよ!私下で」

人の家に勝手に上がり込んでベッドで寝かせてもらうのも悪いので断ると、トト子がパッと目を輝かせた。あ、あれ私なんかまずい事言ったかも。

「じゃあ一緒に寝ましょ!」

かわいいクッションを抱きかかえて、トト子がベッドに入る。

「なまえ〜電気消して〜」

すごく嬉しそうな声のトーンでトト子が言うので私は「はいはい」と若干呆れながら電気を消した。電気のスイッチがあった場所から暗い部屋を転ばないように進み、ベッドにたどり着くと少しだけ布団をめくる。窓の外から入ってくる電灯の明かりがぼんやりとトト子の顔を照らす。布団にはいり、トト子のほうに向き直り、目をつぶった。

「おやすみ、トト子ちゃん」
「おやすみぃ、なまえ〜」

次の日も起きて引き続きトト子の家で遊んでいた私たちは、一緒にご飯を作ったり、おしゃべりをしたり自分たちで作ったお菓子を食べたり他愛もない時間をすごしているとトト子の携帯が鳴った。

「ん?トト子ちゃん携帯なってるよ?」
「あ、いーのいーの!なまえのほうが大事だもん」

とは言ったものの、そのバイブ音は1回で鳴り止まずずっとブーブーとなっているため「でも電話だし、急ぎとかじゃない?」と言うと「もお、トト子となまえはラブラブおうちデート中なのにぃ」と文句を言いながら渋々携帯をてにとった。

「あれ、トド松くんからだぁ」
「トド松くん?なんだろね」

トト子がスマホの画面をタップし、スピーカーにして電話にでる。

「はい、もしもしぃ」
「あー、あの、トト子ちゃーん?」
「なぁに、カラ松くん」

電話に出たのはトド松ではなくカラ松だった。カラ松から電話を掛けてくるのは珍しいなぁと思ったが、おそらくこの感じは六つ子全員で電話をかけ代表者が喋っているという感じだろう。

「あのぉ、明日の約束なんだけどぉ」

カラ松が話す。要するに明日約束していたトト子との用事をキャンセルする電話のようだった。

「えー!えー!えー!!!これないのぉ!」

家が揺れるほどのとんでもない大声をあげてトト子が嘆いた。咄嗟に耳を両手で塞ぐが、それでも耳の奥でキーンと嫌な音が響く。トト子と六つ子のデート…とは言ってもおそらくトト子の買い物with六つ子という形になるのだが、それでもいつもトト子の奴隷と言わんばかりに意気揚々とついて行っている彼らが約束を前日にドタキャンするとは、冠婚葬祭でもない限りありえない出来事だ。というのも彼はニートで一日中家で寝ているかテレビを見ているか漫画を読んでいるか、外に出るとパチンコスロット競馬とクソな生活を送るくらいしかやることがないためである。

「どういうことなのかなぁ」

トト子が鬼の形相でスマートフォンに手を押し込む。するとそのまま中に吸い込まれていくではないか。私はびっくりしてその様子をじっと眺めていた。

「え、ええ……トト子ちゃん!?」

顔を引き攣らせて彼女の安否を確認しようと画面に近づくと中からにゅっとトト子のものであろう手が伸びてきて、私の胸ぐらを掴んだ。そのまま物凄い力で引き寄せられ、顔を上げると私の上半身がスマホから飛び出し、そこには青ざめた顔の六つの同じ顔が並んでいた。

「約束したよねぇ、なんでえ?」
「ちょっと…急用ができちゃって…。て、てか、なまえ!?」

顔面蒼白で言い訳をするチョロ松くんがスマホから上半身だけだして呆然としている私を見た。私は彼と目が合うと苦笑いをしながら「やっほー」と小さく手を振っていた。

「へぇ〜トト子とのデートには来たくないんだぁ」
「の、ののののん!トト子ちゃん!」
「行きたいよぉ、でも、やむなく断腸の思いで!」

このまま上半身だけ出していても居心地が悪いので、よいしょと体を全部出し切る。

「ほんとにい?」
「ほんと!断腸!な、十四松!」
「うあああ!腸がちぎれるうう!トト子ちゃんとのデートに行けないなんてぇ!」

断腸の思いという言葉のとおりに十四松くんの腹から腸が飛び出てきた。いや、どうやってやってんのそれ…。

「あっそ、もう誘ってあげなぁい!じゃあねえ」

トト子がマイペースの限りと言った感じでスマホに帰っていく。全部入りきったかと思うとニョキっと顔を出し、「なまえ!いこ!」としかめっ面をして言った。

「す、すごいな、トト子ちゃん」
「いつのまにあんな技を…」
「僕も褒めて」

二人が感心している中、十四松くんが腸をちゃんとしまえたのか、兄弟達にそう言った。「おーよしよし十四松くんこれ大丈夫なのぉ?」十四松の腹を撫でると十四松は気持ちよさそうに目を細めて「なまえちゃんの手ぇきもちぃー」と言った。

「ていうか、なまえはなにしてんの?」

おそ松が言う。私は十四松くんのお腹を優しくさすりながら顔をあげると「えー?トト子の家でラブラブお泊まりおうちデートだったんだけど」と答えた。一松が「なまえとトト子ちゃんがラブラブ…。なにそれ俺得」そう言うと他の兄弟達も「なまえとトト子ちゃんがおうちで夜を……でへへへへ」と鼻の下を伸ばし始めた。

その中で唯一普通の顔をしてこちらを見ているカラ松と目が合い、十四松の元から立ち上がるとカラ松の方に近づく。カラ松の胸ぐらを掴むとグイッと力強く掴んでいる手を引っ張り、目を瞑ってそのまま顔を近づけた。

「んえ?は、はにー…?」

おそらく真っ赤な顔をして口をぱくぱくさせているカラ松が素っ頓狂な声を出す。そしておでことおでこがコツンとぶつかると私は目を開けた。

「からまーつ。私見てたからなぁ、きのう」
「え、き、きのう?はにー、おれなんかしたか?」

全く覚えてない様子のカラ松に呆れパッと手を離す。解放されたカラ松の体がストンと床に落ちた。

「だーかーらー」

ずいっと下にいるカラ松に顔を近づけると、またカラ松が真っ赤な顔をした。

「キスはおあずけ。私怒ってるんだからね」

ぷいっと口を尖らせて顔を背け、姿勢を戻すと私もスマホに片足を入れた。

「カラ松くんなんて、もう知らないから」

ふーんだ、と最後に捨て台詞を残してスマホに入る。

「な、なんだったんだよ、いまの…」

おそ松が言う。その部屋にいた六つ子たちの全員が顔を引き攣らせていた。そしてその中でもカラ松は青ざめた顔をしていて「お、おれ何したんだよ、はにいいいい!!」と涙を浮かべて叫んだ。

「てかさぁ、なんでこの二人まだ付き合ってないの」

トド松が眉間に皺を寄せて呟くとカラ松以外の全員が「それな」と頷いていた。
*<<>>
TOP