となりのかわい子ちゃんより大事な私をみろ
帰宅途中、ちょうど松野家の前を通りかかろうとすると、何やら騒がしい。この家が騒がしいのはいつもの事だが、玄関先で誰かと話しているようだった。近づこうとするとそっちを見つめてトト子が佇んでいた。

「あらトトぴ。なにしてんの、そんなところで」
「き、きんちゃんだれ……」
「え?」

見ると六つ子達が手を振るその向こうにはショートヘアの女の子がいた。その子は六つ子たちに手を振ると隣の家に入っていった。

「んん?お引越しかしらね」

そう答えるとトト子がバッと勢いよくこちらを振り返った。

「ええっなに……?」
「なに?じゃないでしょ、いいの!?カラ松くんは!?なまえはあのこ誰!?ってならんの!?」
「いやー誰とはなってるけど、聞けばいいんじゃない?」

凄い迫力で詰め寄ってくるトト子に驚いて目をそらして言う。実際は六つ子たちが女の子に手を振っていたというだけで、恋愛感情を持ってるとかいうわけではないかもしれないし…。

トト子と私は幼馴染で。私とニートで童貞な六つ子達も幼馴染。そして私はその六つ子の中の一人と両思いだ。と、自分で言うのもおかしな話なのだが、私は彼のことが好きだし、彼も私のことが好き。それは分かっているけれど決して自分からは告白しない。相手からの告白待ちである。と、いつまでも待っているのだが一向に告白されない…。これは彼らが童貞だからなのか…。いい加減私も頭を抱えているのだが、両思いである以上焦る必要はない。彼は私にゾッコンなのだし、このまま一番楽しい時期を楽しみきっちゃおうというわけである。

そして今、トト子は自分を崇拝している六つ子たちが他の女の子と話している現場を見て、要はショックを受けていた。それは嫉妬というものではなく、単に「なぜ私に知らされてない人間がいるの?トト子に真っ先に報告じゃないの?」という支配欲に近いと思うのだが…。そんなことを口走ると話がややこしくなるので今は黙っておこう。

「かわいいなぁ」
「かわいいよねぇ」

と六つ子たちが口々に言っているのが微かに聞こえる。

「かわいいじゃないわよ、トト子じゃないの、一番可愛いのはぁ。あ、でもなまえもかわいいよ?トト子の次くらいにねっ」
「あはは、そっかぁ、ありがと」

トト子と会話をしていると六つ子たちがいるほうから突然大きな声で「きんちゃーん!愛してるぞぉー!」と叫ぶ声が聞こえた。それは紛れもなく私の好きな人、青い男の子の声で思わずピクリと顔がひきつる。カラ松のその発言にトト子も顔を若干引き攣らせてそおっと私の顔を覗き込んできた。

「あ……なまえ?」
「聞き捨てならんなぁ、それはぁ」
「うわぁ、なまえが怒ってるぅ」
「もういこ、トト子ちゃん」

ぷいっと後ろを向いて歩き出した。「ええっなまえこっちでしょ家!」そう言いながら追いかけてくるトト子に「もーむかつくから遠回りしてかーえろ。いや、トト子んち遊びに行こかなぁ」そういうと途端にトト子が目を輝かせて私の腕に絡みついてくる。

「ええっ!トト子んち!?お部屋片付けるからぁ、5分だけ外で待ってて?あーんどうしよ、なまえとトト子の部屋でふたりっきりぃ?今日はぁ、一歩進んじゃうのかもぉ〜」
「う、うーん、どうだろね……」
「てかてかぁ、いまなまえ、トト子のことトト子ちゃんじゃなくて、トト子って呼んだでしょ?あれもっかい言って〜!」
「え〜私今呼び捨てだったぁ?」
「呼び捨てだったぁ〜まじときめく〜。ね、おねがぁい」

言い忘れていたかもしれないが、この幼馴染のトト子は私のことを大層に気に入っている。…いや、気に入っているということにしよう、そういうことに…。
*<<>>
TOP