マドンナのあのこ1
学園のマドンナ、クラスの人気者、男たちの憧れの女子。そんな言葉が良く似合う女子だ。そんな彼女が今おれの目の前にいて、鼻先を擦り寄せていた。窓からはオレンジ色の光がぼんやりと教室にいる二人の男女を照らしている。

「あの、からかってるんですか」

苗字にさんを付けて他人行儀に名前を呼んだことしかない彼女。プリントを配る時に後ろの席の男子と喋っていて前の席のおれに気が付かないから仕方なく呼んでいた。彼女はピンク色の唇を動かして「ありがとう、松野くん」と笑った。

あの時のまんまの表情で、彼女は笑う。桃の香りがする色付きのリップクリームを塗った唇がにんまり笑って、黒目がちなふたつの大きな目が細められる。長い睫毛が揺れる。その1秒1秒が俺にとってとんでもなく長い時間のように感じて思わず唾を飲み込んだ。

「ふふ、あまりにも松野くんが可愛くって」

彼女の右手が震える俺の顔を撫で、髪を触って耳朶を掠める。なんとも言えない耐え難い気持ちになって俯き、唇を噛み締めた。

「見てみたいと思わない?」

なにを、と言い返すのに俯いていた顔を上げると彼女の綺麗な顔がぐっと近づいて、僕の耳元で囁いた。

「わたしがどんな下着つけてるか」

どくん、どくんとうるさいくらいに心臓は音を立てていて、この鼓動の音が彼女に聞こえていたら何を言われるかわからない。おれは必死に大きく息を吸った。彼女の手が制服のスカートの裾をつまんでするすると持ち上げる。衣擦れの音、野球部がボールをバットに当てる音、俺の心臓の音、彼女が瞬きをする音。全部が僕の耳に聞こえてきて、頭が熱で茹だりそうだった。スカートを持ち上げる彼女の手を掴んで、彼女の体を無理やり机に押し付ける。

「責任とってくれんだよね」

彼女の長い髪の毛が机の上に広がって、下から大きなふたつの目が僕を捉え、それからゆっくりと細められた。
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