マドンナのあのこ2
「おはよう、一松くん」

耳元で突然声がして、ぞわりと背筋が凍る。勢いよく振り返るとおれの顔のすぐそばで笑うクラスメイトがいた。まさに昨日、一緒に夕日を浴びていた女だ。おれは口をぱくぱくさせて、当たり前の挨拶すらままならない。口元は妖しく弧を描いたままで「ん?」と首をかしげる彼女が、つい16時間前におれの下で艶やかな黒髪を乱して、涙を浮かべながらおれを求めていたなんて。一松くんと初めておれの名前を読んだ声が、昨日のことを蘇らせた。

「松野と仲良かったっけ?」

後ろから礼儀知らずな男が横入りしてきて、彼女は顔を少しだけそいつの方に向けて頷いた。

「うん、昨日少し遊んだんだ」

ね?と彼女の目がまたおれに向けられて、細められる。

何を考えているんだこの女は。

昨日の夕方、彼女と過ごした最高の時間をおれは少しだけ後悔した。
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