マーメイドヒーロー!!
ああ、俺死ぬわ!
覚悟した。全力で。
ぶくぶく体は海の底に向かって沈んでく。
足を吊ったんだ。
中学サッカー日本代表が情けない。
海水浴で足吊ってぶくぶく沈むなんてさ。
あぁ、吹雪のゼリー勝手に食ってごめんな。さっき謝っときゃよかった。
円堂とかさ迷惑かけたし、ダークなんたらとかさ。
…あ、自分から嫌なこと思い出しちまった。
ってか本当に苦しい!
目とか鼻とかから海水入ってきてからい!痛い!
あれ、待てよ。
これ本当に結構ヤバイかも。
意識が朦朧としかけた時に、俺の体が受け止められた。
「大丈夫ですかっ?お気を確かに!今助けます!」
女の子の声だ。
大丈夫な訳あるか、と言いたいところだが、どうもそんな余裕はなさ、そ、うだ…。

‐‐‐‐‐‐


「もし!もし!大丈夫ですか?起きてください、ねえってば!」
「ん…う…」
光が眩しい。苦しくないし、助かったのか…。
「う、ゲホッ!ゲホッ!」
むせても空気は逃げないで、水が肺から出ていった。
ぼんやりとした視界が鮮明になって、目の前で俺の顔を覗き込む顔に気が付く。
「大丈夫ですか、にんげ「うわぁ!」きゃあ!」
ごちん!
起き上がった俺の額と目の前の人との額がぶつかり、すごい音を出した。
悲鳴をあげてその人は遠ざかり、しばらくうずくまったのち、そっと顔をあげる。
「あいたたた…。大丈夫…ですか、人間さん…」
人間さんって…そんな自分が人間じゃないみたいな言い方…ってツッコミを入れようとして気が付いた。
その人は…、いや、人じゃない!!
下半身の鱗に、尾びれ。
胸に貝殻かひっついていて…。
「に、人魚姫…?」
「人魚は正解、姫はばつです。私はただの人魚です。人間さんは、王子さま?」
「残念、俺はただの人間だ」
「そっか…。まあ王子さまなんてそう滅多に溺れないよねぇ」
人魚は少しだけ悲しそうに目を伏せた。
「えっと、助けてくれてありがとうな。助かったぜ、本当に」
そう言って、自分が死にかけていたことを思い出して、冷や汗をかく。
それにしても本当に危なかった。
「人間さん、お名前は?私はなまえっていうんだよ」
「俺は、風丸一郎太」
「かぜまる…?」
「あぁ、」
「ふーん…」
するとなまえは不思議なものを見るように、俺のことをじっと見てきた。
あまりいい気分はしないけれど、なまえが
「私、人間をこんなに近くで見たの初めてっ」
とはしゃぐので、それなら無理もないか、と俺も初めて見る人魚をじっと見つめた。
「あ!」
「ど、どうした?」
突然声をあげたなまえに驚いて、人魚とはいえ、半裸の女の子の体を見つめていた俺は肩を震わせた。
しかしなまえが声をあげたのは俺のせいではないらしい。
なまえは海のほうをキョロキョロとして、何かを探しているようだった。
なまえが首を動かす度に揺れる貝殻のペンダントが、太陽の光を反射してキラキラ光った。
「お姉ちゃんが、私のこと探してる…」
「え…?」
「ごめん、かぜまる。私もう行かなきゃ…」
なまえが悲しそうな顔をして、それから首の後ろに手を回し、ペンダントを外す。
「人間とはね、本当はあまりあっちゃいけないんだ。危ないからね」
「そ、そうなのか…」
「私は、人間ってそんなに悪い生き物には見えないけどなぁ。…これ、あげる」

海のほうを睨み付けるようにしながらなまえが手早く、貝殻のペンダントを俺の首にぶら下げる。
「また会えるかどうか分からないけど、きっと会えるよ!私、かぜまるのこと好きなの!」
「あ、ちょっと、待っ…」

ぼちゃん!

‐‐‐‐‐‐

引き出しに仕舞われていた貝殻を手にとって、あの時のことを鮮明に思い出した。
なまえは今どうしてるんだろう。
あの時俺は確かになまえに一目惚れというのをしていたというのに、海に潜って行ったなまえには何も伝えることはできなかった。
俺のことなんか忘れて、他の人魚の男と幸せになってくれていたら、その方がいいかな。
人魚姫の話では、魔女の力で声と引き換えに足を貰っただかなんとかって。
間違っても、魔法で人間になんかなるなよ、なまえ。
「さて、吹雪とヒロトの所に行くか。あいつらより遅れていくと面倒だからな…」
ペンダントを首にさげて、スニーカーに足をねじ込む。
二人との待ち合わせ場所の駅前に行くのに、日曜日の人混みをかき分けた。
そこで目に飛び込んできた女の子の姿。
ロングスカートにTシャツで、長い髪を揺らして、周りは人混みに囲まれているのに、どこか浮いている。
そして、俺はその顔を知っていた。
「風丸、みっけ!」
「…え」
「会いに来たよ、私の王子さま!」
足、付いてるし。

お詫び企画人外/人魚
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