ちょこれいとのおまじない
「冬花、冬花」と背後から私を呼ぶ声。
この声の主はもちろん分かっていて、分かった上で私はニコニコと微笑みながら「なあに」と振り返った。
「冬花!」
ぱっと表情を明るくさせたのはなまえちゃん。
その手には、ピンクのビニールで包装してある袋が握られていた。
「冬花、これ」
「え、なにかしら?」
その袋を私の左手に握らせて、なまえちゃんは嬉しそうにはにかむ。
「これね、ホワイトデーだからお返し。先月は本当にありがと、冬花。とっても美味しかったよ」
「え…、あ、ありがとうなまえちゃん!私すっごく嬉しい」
私がなまえちゃんの白くて綺麗な手をぎゅっと握ると、なまえちゃんの頬は心なしか赤く染まった。
「食べてもいい?」
「どうぞ、召し上がれ。まあ、冬花先生の腕には及びませんが…」
「いただきます。…うんっ、おいしい!」
「本当?」
「本当だよ。なまえちゃんお菓子作り得意なの?」
「あまりやらないんだけど…。コホン!」
わざとらしい咳払いを一つ。
なまえちゃんがふふんと得意気に笑った。
「実はですね、これ作ってる時にはですねぇ。冬花とずっとお友達でいられますように〜っておまじないをかけてたんですよ〜。ま、それが隠し味ってとこかしら!」
恥ずかしそうに笑うなまえちゃんに、今の私の顔は見せらんない。
なまえちゃんが言う、仲良しだとかお友達だとか、親友だとか大好きだとかがずきずきと私の心に容赦なく突き刺さり、私の表情を歪ませるのだ。
誤魔化してることなんか、きっとお馬鹿ななまえちゃんには分からないだろうと、私はなまえちゃんの首に腕を巻き付け、くっついた。
「わわっ!冬花ぁ?」
「なまえちゃん、大好き」
「うん、私も冬花が大好き!大親友だもん」
なまえの手が私の背中に触れる。
「実はね、なまえちゃん。私もおまじないをしてたのよ?」
「じゃあ私たち一緒だね、冬花!だから冬花のチョコはあんなに美味しかったのかぁ」

「いつかはなまえちゃんと両思いになれますように…なーんてね」
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