間抜けなわたしは、世界を崩した
※捏造でしかない。高校生設定。

「修也はさあ、将来何になりたいの?」
ノートにシャーペンを走らせている修也に聞くと、修也はゆっくりと机から顔をあげた。
「どうしたんだ、急に」
「んー?だってさ、修也は世界一になっちゃったんだし、やっぱり将来もサッカーやるのかなあって思って」
私が言うと修也の表情が少しだけ曇った気がした。
「修也…?」
「サッカーには、きっと関わるよ」
眉尻を下げて修也の顔を覗き込んだら、修也は私の目を片手で覆って、私の心配する視線を妨げた。
「そっかそっか。私は中学の時から、いくら修也が構ってくんなくても、沖縄行っちゃっても、宇宙人(笑)と戦ってる間でも、国境を越えちゃっても、サッカーをしてる修也が好きだったから…」
修也が罰の悪そうな顔をして、嫌味かと問うので、違うよと首を横に振った。
「だからさあ、私、大人になっても修也がサッカーする姿が見れるのは嬉しいなって」
「サッカーをするとは、一言も言っていないがな」
「え、でもでも!夕香ちゃんも元気になったんだし、もう目一杯サッカーできるよ、修也…?」
修也の表情は暗い。
私は少し焦って、修也のほうへ少しだけ体を近付けた。
修也が、遠い。
「修也、あのっごめんね!なんか嫌なこと言ったかなっ。私、いっつもドジって知らないうちに人傷付けたりしちゃうから、私、不安で…。修也居ないと、私、駄目な子だから、友達もできないし。だから、修也、ごめん…」
修也が私のほうをちらりと見た。
必死に謝る私を見、表情を変えぬままで口を開く。
「俺は世界を変えるよ、なまえ。それが今の俺の夢だ。あの頃の俺はあまりにも無力すぎた。ただの子供だったしな。でも今は違う、もう高校生の俺はこれから大人になっていく。だからなまえ、お前にも一緒に居て欲しい。俺が本当の意味で頼れるのは、円堂とお前くらいだ」
「じゃ、円堂くんにも…。鬼道くんだって、きっと言えば力になってくれるんじゃない?何も私一人に頼まなくても…」
正直不安であった。
私は今まで、人に頼ることはあっても頼られることはなかなかに珍しかったし、修也にもお世話になりまくっていたし。
私なんかが修也の役に立てるのか、と。
だから、ここでは円堂たちにも頼る、と一言で良いから言って欲しかった。
「駄目なんだ」
「え…?」
修也お得意の目蓋を閉じる作戦によって、修也の感情が全く読めない。
まあ、元々間抜けな私には、修也の感情を読み取ろうなんて無理な話だけれど。
「どうして、」
「円堂たちには、言えない」
「私には、言えるの?なんで?」
「なまえ、お前は、俺のことを嫌いになると思うか?いつか俺から離れていくと思うか?」
修也は目蓋を開いて、真っ暗な瞳で私を見据えた。
「思わない、思わないよ。だって私には修也が必要なんだもん。私、修也居ないと何も出来ないよ。修也とずっと一緒に居たい」
修也が微笑んだ。
私の体を引き寄せて、包み込むと、強く強く力を込めて、抱き締めた。
「なまえ、愛してる」
「わ、私も!私も修也のこと大好きっ」
修也は優しかった。
まるで割れ物を扱うかのように、私を愛でた。
それはとても嬉しかったけれど、私は何処か、暗い海のそこへ二人で沈んでいるような気分であった。
でもこの時の私には、修也と共に感じるその息苦しささえも愛おしくて仕方なかった。
あの時にどうして気付けなかったんだろう。
あの頃の私ならきっと、修也を救ってあげれたのに…。
どうして「でも何か悩み事があったら早いうちになんでも言ってね」なんてありきたりな一言すら口からでなかったのだろう。
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