しんぞうが!
玄関のチャイムを押して、しばらくするとドタドタという足音ののち、がちゃりと扉が開いた。
「はぁーい」
「よお」
「の、典人お兄ちゃんっ!ど、どうして…」
俺の顔を見るなり、なまえはみるみる顔を赤くして慌てた様子で言った。
「親から醤油切らしたから、なまえちゃんちに分けてもらって来てって言われてな。おばさん居る?」
「う、うちのママは今お出かけちゅ…あ!わ、私、こんな格好で…っ!典人お兄ちゃんの前なのにっ」
俺を家に入れようとしたなまえは、中学のジャージのままの自分の格好を見て、顔を真っ赤にすると、開けかけていた扉を勢いよく閉めて、ドタドタとまた走って行った。
あ、あぶねえ…。
「あいたたた…。い、いらっしゃい、典人お兄ちゃん…」
と、思っていたらあっという間になまえは帰ってきて、扉の隙間から顔を出した。驚くべきことに、なまえはこの短時間でしっかりと着替えを終えていた。
「なまえ、さっき何かが落ちて割れる音と、人間が転んだ時の音が聞こえた気がしたんだけど、だいじょ「な、ななななんのことかな、典人お兄ちゃん!私、花瓶なんか落としてないし、階段から転がり落ちてなんかいないよ!やだなあ、典人お兄ちゃんたら。あ、あははは」…気のせいか、」
「さ、さ!上がって上がって!」
「じゃあ、おじゃましまーす…ん?」
靴を脱いで家に上がらせてもらうと、ふとある事に気が付いた。
「えっと、何かな典人お兄ちゃん…。そ、そんなに見られると恥ずかし…」
「お前さ、また背伸びたよな」
「へっ?」
なまえの動きが固まる。
その目にはうっすら涙もうかがえる。
「俺と同じくらい…いや、ちょっとでけえかも」
「だ、だって、うちの親二人とも180越えだし。なるべく牛乳とかたくさん飲まないで、背伸びないように頑張ってるけど、どんどん伸びちゃうし…。小学校までは普通だったのに中学入ってから凄い伸びてきて…。お、女の子なのに体大きくなるの嫌なのに。わ、私だって、典人お兄ちゃんより大きくなりたくないよ…」
「なまえ…」
なまえの頭に手を伸ばそうとしたが、なまえが歩き出してしまったので空振りしてしまった。
「ご、ごめんね。お醤油だったよね、どうぞ」
「さんきゅ。あのさ、お前な、身長あんま気にすんなよ」
「え?」
「別に、俺がもっと大きくなっちまえばいいんだろ?」
玄関で靴を履くために俯いているから、背後のなまえの顔は見えない。
もちろん、なまえからも俺の顔は見えないようなので、好都合だ。
こんなゆでダコみてえな顔見せらんねえし。
「ちょっと待ってろよー、なまえ。お前が身長気にしなくてもいいように、すぐにでかくなってやっから」

しんぞうが溶けちゃいそうだよ!!

「また遊びに来てね、典人お兄ちゃん!」「おう」

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