一年生

毎年この時期はわくわくする。新しい場所に新しい人。この場所からしてみれば自分も新しい人になるのだけれど。これから築かれる人間関係はどうなるんだろう。不安はない。この大学には兄さんもいるし、何より楽しみなのは隣にいるこの人。
「これが医療棟であっちが図書館」
入学式で隣になって、他校からここの大学院に来たのだと言うと親切にも案内してくれといる彼。同期生になる彼は今年の3月にここの学部を卒業し、院に進学すると共に学部の助手を務めるのだそうだ。よほど優秀なんだなあと感心していたら彼がこちらを見ていた。
「セシル?疲れたか?」
「ああゴメン、大丈夫だよ」
それでもクラウドは少し休憩しようとカフェに入った。中に入った瞬間に集まる視線に戸惑う。それはほんの数瞬で、すぐに視線は散らばった。クラウドは気付いていないようだった。真剣にショーケースを覗いている。ケースの中には数種類のケーキやタルトが並んでいた。セシルも隣に立ってケーキを眺める。どれも美味しそうに見えたが洋ナシのタルトを注文した。クラウドは悩んでかぼちゃプリンに落ち着いた。
「ずいぶん真剣に悩んでたけど甘いもの好きなの?」
「…変か?」
「ううん、僕も大好き」
僕達気が合うねと笑うとクラウドも嬉しそうだった。この辺の地理には詳しくないから美味しいお店があったら教えて貰おう。そう思いながら一口ずつ交換しながら食べたりしていると殺気を孕んだような視線が突き刺さった。店内に入った時のとは違う、敵意を持ったものだ。セシルはそれとなく辺りを見回した。…彼だ。ダークブラウンの髪に鋭い目付き。顔が整っているから凄い迫力だ。隣の友人の話を聞く振りをしてこちらを睨んでいる。あんなになるほど睨まれる理由が思いあたらずセシルは新しくできたばかりの友人に聞いてみることにした。
「ねえ、彼知ってる?」
「うん?」
目線だけで彼の位置を知らせるとクラウドは顔を向けてそちらを見た。とたんに殺気が消える。
「…?」
彼を見てクラウドが柔らかく微笑む。それは愛想笑いとかではなくて、暖かくて大切なものを包むような慈愛が感じられた。彼の方はぽかんと口を開けていて、クラウドが見てると分かったらみるみる顔を赤くしてしまった。そして微かに頷くと隣の友人の方を向いた。
「…ふーん?」
「何だ?」
彼には僕がどう映ったかな。クラウドを誘惑する悪い人といったところか。
「知り合い?」
「ああ」
それ以上は語らないクラウドにセシルは今の立ち位置を知った。もう少し仲良くなったら紹介してもらえるかな。
「クラウド」
「何だ」
「これからよろしくね」
「こちらこそ」
明日から楽しみだ。きっと退屈しない毎日になるだろう。

[ 37/75 ]

[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -