敵?味方?

クラウドには散々可愛くないとか生き急いでどうすると言われたが限られた時間を有効に使わない手はない。ただでさえクラウドとの四年の差を縮めるには並大抵の努力では無理だというのに。
クラウドの後をついて院の研究室に入る。中は専門書が乱雑に積み上がっている。だが適当に積まれている訳ではない。系統的に分類されていて、誰かが使っている最中なのだろう。
「やあクラウド、こっちに来るなんて珍しいね」
先日カフェでクラウドと一緒にいた銀髪がふわりと首を傾げた。
「パソコン空いてるか?」
「さっきまでウォルが使ってたけど…ウォル?」
「今しがた終わった」
「だって」
奥からウォルと呼ばれた男が出てきた。クラウドは二人の前にスコールを立たせると紹介を始めた。
「スコールだ。よその学部の学生なんだがSPSS入ってるパソコンが空いてなくて。貸してやってくれ」
「いいよ。僕はセシル、よろしくね」
「ウォーリアだ」
「…どうも」
少しだけ頭を下げて奥へと進むクラウドの後に続く。パソコンの前に座りソフトを起動させるとクラウドがあ、と顔を上げた。
「ちょっと忘れ物。取りに行ってくるから分からないことがあったらセシルかウォルに聞いてくれ」
「ああ」
そう言うとクラウドは慌ただしく部屋を出た。最初はただデータを入力するだけだ。黙々と作業をしているとキーボードの横にコーヒーカップが置かれた。
「…どうも」
モニターから視線を上げるとセシルが微笑みながら立っていた。何を考えているか読めない笑顔にスコールは警戒した。入学式の後にクラウドと一緒にカフェにいたこいつはクラウドをどう思っているのだろう。
「まだ一年生?」
「ああ」
「もうこんなことしてるの。独学?凄いね」
興味深そうにモニターを覗き込み称賛するセシルは敵意はないように見える。だが実際のところはどうだか分からない。何しろここにいる二人はスコールにないものを持っている。
うーん、とセシルが苦笑しながら首を傾げる。
「もしかして僕嫌われてる?」
「…別に」
なぜそう思うのか。それはセシルがスコールのクラウドに対する思いを感じ取っているからに違いない。だから、自分が二人の邪魔をしているように思うのだ。
「大丈夫、クラウドを取ったりしないよ」
確かにクラウドは魅力的だけど、僕と彼は友達の関係が一番良いと思うんだと言うセシルの瞳は真っ直ぐで、信用してもいいような気がした。
「ただいま。フリオからクッキー貰ってきた」
研究室のドアが開きクラウドが入ってきた。クッキーと聞いてセシルの興味は一瞬でそちらに向いたようだ。クラウドの手にある包みを目を輝かせて見ている。
「これって前に言ってた彼の?」
「ああ。皆で食べよう」
クラウドが包みを開けるとふわりと甘い香りが漂ってきた。正直スコールにはあまり嬉しくない状況だ。人見知りという訳ではないが、初対面の人間と、しかもこちらの警戒心が伝わっている相手と仲良くティータイムなど楽しくない。
「あ、僕ちょっと兄さんのとこに行かないといけないから少し貰っていっていい?」
「ああ」
クラウドはクッキーを少し皿に移し、包みをセシルに渡した。セシルはありがとうと受け取るとウォルの腕を掴んだ。
「さ、行こうか」
「え?私もか?」
「勿論だよ。さ、馬に蹴られたくなかったらさっさと行こう」
「ちょ…セシル!」
事態が把握できていないウォルを引き摺ってセシルは部屋を出ていった。一瞬遅れてセシルの言った言葉の意味を理解したクラウドが慌てる。なぜバレているのか。しばらく考えていたが思い当たるふしはないようだった。
「アンタ話したのか?」
「いや」
話してはいない。だがセシルは気付いていた。スコールにとってはバレたかどうかは重要ではない。セシルがクラウドを狙ってはいないこと、そして二人の仲を悪くは思っていないことを知ることができたのは収穫だった。理解者になるかどうかは分からないが、少なくとも院に悪い虫はいないようだ。少し不安材料が減り、スコールはほっと息をついた。

[ 38/75 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -