ボクチンの子猫ちゃん

彼の前ではフルアーマーの教授もナルシストな准教授も幾らかはマシだと思えた。フルアーマーはファッションだと思えば納得できるし、ああいう舞台関係者は個性的な人が多いと聞く。
だが。
「だーかーらー、ボクチンの子猫ちゃんがいなくなっちゃったの」
ナルシストに負けず劣らずキテレツな格好をしたイカれたオヤジが名誉教授だなんて。
この度ここの大学を会場に開催されることになった学会の学術講演会にはクラウドを事務局にたくさんの学生がスタッフとして駆り出されていた。先日の件もあり、スコールは助手として片時もクラウドの側を離れることはなかった。
クラウドは困ったように頷いているが、スコールは目の前の道化を張り倒したくなった。この道化、ケフカは見た目と違い遠くの国の大学の名誉教授なのだという。そして本学会の特別会員だ。今回の基調講演を行うためにわざわざお越し頂いたが、とにかく一癖も二癖もある。早い話が我が儘なのだ。食べ物は好みもあるし体調管理のために決まったものを決まった量しか食べないというのも分かる。だが連れてきた猫と一緒でないと食べたくないなど、今ここで言い出すことではない。
まあそれでも一食くらい抜いても人間死ぬわけではないからそんな戯れ言は放っておいてもいい。
問題は。
「子猫ちゃんを探しに行くのーっ」
「まあケフカ教授、今スタッフが探しに行きますから」
宥めるクラウドの言葉にも耳を貸さず、数十分後に始まる基調講演を放り出そうとしている、この自覚のなさ。今日のこの講演のために一体何人がスケジュール調整をしただろう。
「探してきてやるからここから動くな」
スコールは苛々と言い捨てた。クラウドは立場上言葉にも気を付けているが、スコールには関係ない。ケフカは変わり者ではあったが礼儀だの言葉遣いを五月蝿く言うタイプではなかったようだ。強い口調に絶対だと安心したのだろう。意外と素直にスコールの言うことを聞いて頷いた。
「すぐに探してきてよ。あの子がいないとボクチン人前でお話なんてできないからね」
「分かった」
スコールはバッツを呼び出すとケフカの子猫探索チームを作らせた。学内のみならず大学周辺に情報網を敷いているバッツならすぐに見つけられるだろう。
「子猫ちゃんの名前は?」
「ティナ」
「で、ティナちゃんの特徴は?」
「ふわふわの可愛い女の子だよ〜」
「何か好きな食べ物は?」
「おやつはいつもバラのジャムとアールグレイのクッキーなのさ」
「バラ…」
聴取をしていたバッツが固まる。好きな食べ物をばらまいて誘き出そうと考えていたがいきなり壁に当たってしまった。バラのジャムもアールグレイのクッキーも今すぐ手に入れるのは難しい微妙な品だ。
途方に暮れるバッツの肩をセシルが叩く。たまに黒く見える笑みが、今回ばかりは後光が射していた。
「バラのジャムもアールグレイのクッキーも心当たりがあるよ。最近食べたから」
「本当かっ?」
「うん」
ちょっと待ってね、そろそろ来るはずだからとセシルはドアを見た。
「来賓の受付終わったぞ」
タイミング良く入ってきたのはフリオニールだった。一斉に皆の視線が集まる。
ね、とセシルが言った。
「彼に作ってもらったんだ」
「そうか!その手があったか」
「…え?」
事態がよく飲み込めないフリオニールの襟を掴んでバッツが飛び出す。向かった先は調理実習室だ。途中フリオニールのバラ園で花びらを収穫するのも忘れていない。
バッツの後を追おうと立ち上がるクラウドをスコールが止めた。
「あんたはここを動くな」
「でも」
「動いていないと落ち着かないのは分かるが、先日の件もある」
「あ、ああ…」
今あんな目に遭ったら大勢の人に迷惑がかかるという自覚はあるのだろう。クラウドは大人しく座るとコーヒーを飲んだ。
「大丈夫だ。バッツを信じろ」
それはスコール自身にも言い聞かせているようだった。

[ 61/75 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -