夏休みはやっぱり海8

「…どっちにしようかな」
そう言ったフリオニールにすかさず怖い方!と言ったのはバッツだった。
いつもは落ち着いた優しい声だが、ワントーン低くしたフリオニールの声に耳を傾けた。

あれは、高校の修学旅行のときの話だ。
昼間はクラス内でのグループで遊園地を回っていた。すごく楽しくて、俺達は何度も絶叫とか乗ってたな。
そんな時。
ふと、名前を呼ばれたんだ。いや、正確には呼ばれた気がした、だな。
振り向くと誰もいなくてさ。隣にいたクラスメイトに今呼んだか?って聞いても呼んでないって言われて。気のせいかってその時は思ったんだ。
だけど、誰かが後ろをついて来ているような気配をずっと感じていたし、後ろ髪を引かれたりもしたんだ。クラスメイトに話しても、気のせいだろって言われるし、感じる度に振り向いてもやっぱり誰もいない。
はしゃぎすぎて疲れてるんだろう、それが俺やクラスメイトの考えだった。
遊園地を後にして、宿泊するホテルに向かったんだけど、移動中は特になにも感じなくて、やっぱり気のせいだったんだなって、思った。
ホテルでは二人一部屋が割り当てられた。
俺が遊園地で疲れてるだろうからと一緒な部屋のやつは隣の部屋に遊びに行ったんだ。鍵を持って。
ほら、俺が寝ちゃうかもしれなかったから、気を使ってくれたんだ。正直、ホテルに入ったらなんだかすごく眠かったし、ベッドに横になったんだ。
どれぐらい経ったかはわからないが、何か音が聞こえた。
それはドアのインターホンだった。何度も鳴って、眠かったけど身体を起こした。
友達が隣から帰ってきたんだと思ったんだ。
ドアを開けたんだけどさ、誰もいなかった。
廊下を見回してもいなくて。聞き違いかってなるよな。俺もそうなったし、ドアを閉めて、ベッドに戻ろうとした。
でも、またインターホンが鳴ったんだ。
『ピンポーン』
それは何度も何度も鳴った。
ドアの覗き穴から見ても、やっぱり誰もいない。
そこで俺は気づいた。
隣の奴らがピンポンダッシュをしてるってことに。
ドアに気配を感じたらすぐ逃げてるんだなって。だから今も視界には入らないんだと。
次にまた音が鳴ったらこちらが勢いよく飛び出して逆に驚かせてやろうと思ってさ、ドアノブを握ったまま気配をできるだけ消して待ってた。
ピンポーンと音が鳴った。
俺はすぐドアを開けた。そして誰が驚くか!って言いたかったのに、誰がしか声がでなかった。そう、そこには誰もいなかったんだ。誰も。
あのタイミングでドアを開けたら逃げれるはずがないんだ。
不思議に思って、ドアを閉めた。途端に背中が寒くなった。振り返ると、部屋の窓が開いていた。カーテンが夜の風に靡いていて、部屋が肌寒い空気に満たされた。でも、その窓は、開けた覚えがなくて。カーテンも閉まっていたし、その窓には触れてもいなかった。
ますます不思議に思って、窓を閉めに行ったよ。寒かったし。
閉め終わると同時にまたインターホンが鳴ってさ。でも次はそれだけじゃなかった。

フリオニールのその声に誰かがごくりと喉を鳴らした。




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