夏休みはやっぱり海7
過去を淡々と語るセシルに表情はない。他人事のように話す様子はやけにリアルだった。
「目を瞑っても通れる慣れた道なんだ。なのにカーブだって忘れてた。兄さんから電話が来なかったらそのままガードレールに激突してたかも」
更にセシルは続けた。
「そして電話で兄さんが変な事を言ったんだ。僕が兄さんに無言電話をかけたって。でもその時僕はバイクに乗ってたんだから携帯なんて触れるはずもない。で、発信履歴を見てみたら…」
それは確かに存在していた。セシルがバイクに乗っている間に発信されたものだった。
「何故かは分からない。でも僕はそのお陰で生きてここにいるんだ」
謎を残したままセシルは話を終えた。はっきりとした結末のない話は消化不良を起こして胸の奥にもやもやとしたものを残した。セシルが蝋燭の火を消しても尚余韻は残っている。
「次は…」
「俺いいかな」
残る蝋燭は五つ。どれも大分短くなっていて長くはもたないように思えた。誰か、とバッツが見回すとフリオニールが片手を上げた。どんな話をするのだろう。皆が注目する中フリオニールがそれらしく重々しく口を開いた。
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