あやかしの黒い百合2

頭が重い。ゆらゆらとぬるま湯の中を漂っているような感覚にクラウドは一旦浮上した意識を手放そうとしていた。
視界に入る黒い影が揺らめく。
「だ、れ…?」
口を開くのも億劫だ。返事を待たずに目を閉じる。泥の中でもがくようなもどかしさに焦れる気力もない。そのまま意識は闇の中に消えた。

クラウドが沈黙したのを見届けてから女が笑う。女は白衣を脱ぐとクラウドが横たわるベッドに腰掛けた。長い爪で頬を撫でる。
「噂通りの美しさ…今度は逃しませんよ」
頬を撫でる爪が喉を辿る。鋭い先に力を少し込めただけで肌がぷつりと裂ける。ぷっくりと浮かんだ血を掬い取ると指に舌を絡めた。
「甘い」
若くて美しい者の血は甘露だ。しかも。
「随分と愛されているようですね」
あの頃とは違い様々な人間から大切にされているようだ。それが自信となり益々美しくなった。
女はクラウドの首を愛しそうに撫でた。ここを流れる太い血管に爪を立てたらどうなるだろう。天井を叩き付けるほど吹き上がる鮮血を浴び、むせかえるような鉄の香りを吸い込む様を想像して女はうち震えた。
クラウドの首に細い指が巻き付ける。ゆっくりと力を込めると白い顔が益々青白くなっていく。
「う…」
クラウドの顔が苦痛に歪む。それが女を更に歓喜させた。
ふ、と締める力が緩む。クラウドの頬に赤みが差し苦悶の表情も消えた。
「無粋な…」
どうやらネズミが迷い込んだようだ。いや、姫を探しに来た騎士か。
「あなたの騎士は誰なのでしょうね」
銀の髪の男か、それともあの男の息子か。どちらでも面白い。だがあまり詮索されるのは都合が悪い。
女は白衣を着ると部屋を出た。その口元は弧を描いていた。

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