あやかしの黒い百合

休日前は夜更かしになりがちだ。家でゲームをしたりとりとめのない話をしたり。たまに院生組で飲みに行ったりする。だが大抵はスコールの要望通り濃厚な夜を過ごすことが多い。
ヤり過ぎると太陽が黄色く見えるって本当だろうか。クラウドは疲れの抜けない体をもて余しながら歩いていた。今日は土曜日、本来なら休日だが業者に呼ばれて今日も仕事だ。あらかじめこうなることが分かっていれば手加減してもらうところだが、深夜にかかってきた電話に邪魔をされ面白くなかったのだろう。その後スコールに執拗に攻められた。
電話の向こうのジェクトは面白がっていた。会ったら文句のひとつでも言ってやりたいが、余計な詮索を受けることになりそうで迂闊なことは言えない。
「くそっ」
これから慣れない仕事が待っているというのに既に満身創痍だ。スコールはまだ寝ていることだろう。行き場のない怒りが込み上げる。学会が近いのだから仕方がないと言い聞かせて自分を落ち着かせるしかなかった。ゆっくりと歩いて校門の前まで来るとジェクトが立っていた。
「おう、急に悪かったな」
「本当はそう思ってないだろ」
「まあな」
ティーダ同様裏表がないのがジェクトの良いところだ。あっさりと肯定されて怒るタイミングを失う。
「さっさと終わらしちまおうぜ。俺様昨日は徹夜でこれから帰るんだ」
ジェクトが大きな欠伸を漏らす。後ろに控えていた業者と簡単に挨拶を交わすと早速打ち合わせに入る。
「ここの看板はそれくらいの大きさで、後は大ホールの横看板だな。字体は…」
自分で作った資料は頭に入っている。大道具の注文を全て終え、最後に確認をして業者を帰す。外注する看板はそう多くはないが実際に使う場所に歩いて移動したので少し疲れたようだ。自動販売機の前に辿り着く頃には体が重かった。
コーヒーを買いベンチに座る。途端に考えないようにしていた疲れがどっと出た。そして体が水分を欲している。そういえば今朝は起きてすぐ家を出たから食事はおろか水の一滴も飲んでいなかった。
「大物の発注は終わったな。俺様は帰るけど、どうする?」
既にコーヒーを飲み干したジェクトが欠伸をしながら問う。クラウドも正直帰って二度寝をしたかった。だが誰にも邪魔をされずに一人で作業できる時間は貴重だ。さっさと終わらせてしまおうと残ることにする。
「オレはもう少しやっていくよ」
「そうか。じゃあおやすみ」
「ああ、お疲れ」
ジェクトは何度も大きな欠伸をしながら帰っていった。それをぼんやりと見送りクラウドは頭の中で段取りをつけた。
(スタッフ名簿はどこまで出来てたっけ…)
「あー…」
座っていると睡魔が襲ってくる。それに抗うために立ち上がることもできず、クラウドの目蓋が段々下がる。からん、と音を立てて手から空き缶がすり抜けて落ちる。からからと転がる缶は誰かの靴にぶつかって止まった。

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