夏休みはやっぱり海4

夕食を終えてだらだら寝転がっていたティーダは眠い目を擦りつつ必死に睡魔と戦っていた。昼にはしゃぎ過ぎたせいか、陸に上がった今でも海の中を漂っているようなふわふわとした浮遊感に意識を持っていかれそうになる。スコールに早く寝ろと布団に放り投げられてもまだ寝るわけにはいかない。夜は楽しくクラウドの昔話でも聞こうと思っているのだ。だが布団の魔力に囚われそうになる。
突然ばちん、という音と共に明かりが消えた。
「何だ?」
起き上がり辺りを見回す。急にドアが開き青白い顔がひとつ浮かび上がった。
「うわっ」
それが下から懐中電灯を当てたバッツの顔だと理解するまでに時間がかかった。バッツは笑いながら懐中電灯をティーダに渡した。
「怪談しようぜ。隣の部屋の奴等を呼んできてくれよ」
「怪談?」
「ああ、夏の夜の海っていったら怪談だろ」
「はあ…」
バッツの主張はよく分からないがとりあえず言われた通りにティーダは隣の部屋に向かった。わざわざノックをして返事を待つようなデリカシーは持ち合わせていない。
「クラウド先生?入るっスよー」
勝手にドアを開けるとここも暗かった。どうやらバッツは建物全体のブレーカーを落としたようだ。懐中電灯の明かりを頼りにクラウドの背中を見つける。先生?と肩に手を置くとクラウドが振り返った。
「ひっ…ぎゃあぁぁぁぁぁっ」
振り返ったのは確かにクラウドだ。だが、顔がない。あるべきはずの目も口も鼻もなく真っ白だ。ぺたんとその場に座り込む。何とか後退ろうともがくが腰が抜けていて足が動かなかった。
「た、たすけ…」
「ティーダ?」
クラウドの声がしておそるおそるもう一度見る。見たらないはずの口に喰われそうな気がしてなかなか首が動かなかった。
「え…あれ?」
今度は、ある。見間違えたのだろうか。ティーダはクラウドにすがり付いてわんわん泣いた。どうした?と聞かれても顔が、としか言えなかった。
「ひょっとして、それのせいじゃない?」
隣にいたセシルがクラウドの持っているものを指差した。クラウドはそれを広げて見せた。
「ああ、これか。バッツがくれたんだ。日陰にいたんだけど少し焼けてしまって」
「これって…パック?」
顔の形をした白いシートを見て力が抜けた。そして何だかバッツの思い通りになっているような気がして腹が立ってきた。これは絶対にバッツの仕込みだ。「ところで突然真っ暗になっちゃったけど、停電かな」
「多分バッツの仕業っス。ってアレ?セシルとウォルも来てたんスか?いつの間に?」
「ちょっと用事があってね、さっき来たんだ」
よろしくねと笑うセシルにほっとする。彼ならバッツの暴走を止められるかもしれない。
「ところでどうしたの?」
「バッツが怪談やるからみんな呼んで来いって」
「楽しそうだね」
早く行こうとセシルが皆を急かす。部屋に戻るとフリオニールまで揃っていた。
バッツは部屋の真ん中に火のついた大きめの蝋燭を置くとそれを囲むように座るよう指示をした。そして皆にも小さい蝋燭を渡した。
「みんな揃ったな。じゃあ始めるか。じゃあ俺からな」
ぐるりと見回しひとつ咳払いをするといつもの飄々とした口調ではなく少し重い表情で切り出した。普段とは違うバッツの顔に皆は息を潜めた。
「昔、まだ俺が小学生で妹が幼稚園の頃の話なんだけど…」

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