夏休みはやっぱり海3

目の前の男達を数える。1、2、3…腕に自信がある方ではないが、何とかなるかは相手の力次第か。クラウドは黙って立ち上がった。目線は向こうが上。腕の太さは大して変わらなそうだ。ここで暴れたら迷惑だろうか考える。どこか適当な場所がないか首を傾げながら辺りを見回す。
「へぇー、近くで見ると可愛いね」
一人が顔を近付けて腕を掴み、クラウドをまじまじと見た。もわんとアルコール臭がしてクラウドは顔をしかめた。酔っ払いは質が悪い。

向こうに行こうか。

そう口を開きかけた時だった。
「人のものは欲しがっちゃいけませんってママに教わらなかったか?」
クラウドを掴んでいた男が一瞬にして視界から消える。少し間を置いて海に落ちる音がした。呆気に取られて男が飛んでいった方をぽかんと見ているとぐいと肩を抱かれた。
「俺様の可愛い可愛いクラウドに何しやがる」
暑苦しい胸板に遠慮もなくぐいぐいと押し付けられてクラウドは息苦しくなってきた。仮にも成人男子に可愛いとは何だ。それが言葉のあやだったとしても、アンタのものになった覚えはない。
「ジェクト、苦しい」
「お?ああ、悪い」
「それに、俺の、可愛いって何だ」
「俺様の可愛い元教え子で部下だろ?」
ジェクトが大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でる。それに振り回されながらクラウドは一応納得した。
「さて、俺様の可愛いクラウドに群がる悪い虫は退治しないとな」
ぎらりと殺気を含んだ強い視線を男達に向ける。男達はジェクトを見て息を飲んだ。金属バッドも片手でへし折れそうな筋肉も、何度も死線をくぐり抜けてきたような身体中の傷も、二人がかりで太刀打ちできるようには思えない。
「今なら話し合いで穏便に済ませられると思うぜ?」
「っの…」
だがここで引き下がるなら最初からナンパしたりしない。これから先はほとんど本能だ。後先考えずに咄嗟に殴りかかる。振り返ったクラウドが襲いかかる男達を認識した次の瞬間。男の顎にはジェクトの拳が、もう一人の鳩尾にはクラウドの蹴りが入っていた。
ぐらり。
男達は音もなくその場に倒れた。
「終わった?」
ジェクトの後ろからルーネスがひょこりと顔を出す。ジェクトはまたあの荒っぽい手つきでルーネスの頭を撫でた。
「ああ、教えてくれてありがとな」
「あれ?知り合い?」
クラウドが首を傾げると二人は頷いた。どういう関係なのだろう。ティーダの同級生というにはルーネスは若すぎる。近所の子なんだろうか。
「クラウドっ」
「わ…」
二人の関係を追及しようとする前に腕を引っ張られる。ジェクトの胸から離れてバランスを崩し倒れ込んだ先は、今度はスコールの胸だった。
「大丈夫かっ」
「え?ああ、うん」
スコールは両腕にクラウドを閉じ込めながらジェクトを睨み上げた。誰が誰のものか、話していたのが聞こえていたようだ。
「おぉー、おっかねぇ。邪魔者は退散するか。さ、行くぞ」
「うん、じゃあまたね」
「あ、ああ…」
ジェクトは大袈裟に身震いすると足元でのびている男達を掴み引き摺りながら歩き出した。ルーネスも手を振りがらその後に続いて人混みの中に消えた。
姿が見えなくなったのを確認してからスコールはほっとしてようやく腕の力を弱めた。
「変なことされてないか」
「ジェクトが持ってってくれたから、大丈夫」
「違う。あの筋肉親父にだ」
「ああ…」
スコールは教授陣のクラウドに対する過剰なスキンシップを嫌がっている。既に慣らされているクラウドにしてみれば体を撫で回されたり肩を抱かれる行為は同性が相手だとセクハラにあたるのか微妙なところだ。
「大丈夫、ありがとう」
この感覚の違いが喧嘩の素になることは今までの経験から思い知らされている。クラウドはスコールの首に腕を回すとちゅ、と音を立てて頬にキスをした。少し卑怯だがこれで機嫌は少しはマシになるはずだ。スコールを見ると案の定滅多にない不意討ちに顔を赤くしている。
「喉渇いたな」
スコールの手からジュースの缶を取りプルトップを開ける。座ってからそれを飲むとスコールも隣に座った。肘が触れる距離が心地好い。
パラソルの外は相変わらず太陽がギラギラと照り付けている。喧騒に交じりティーダのはしゃぐ声が聞こえる。クラウドは隣を見てにっこりと微笑んだ。

[ 68/75 ]

[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -