男ですが何か

昨日はセフィロス教授の研究室で課題をやっていたため教科書をそこに忘れてきてしまったことに気づいたのは、次の授業が始まる5分前だった。
クラウドは学内を走り、研究室へ続く廊下を曲がったその時だった。

『っ…!』

前方から来た誰かと思いっきりぶつかってしまい、進行方向とは真逆の後ろに身体が跳ね飛ばされた。

(ぶつかる…!)

廊下に身体が叩きつけられるであろう予感に眼を固く閉じ、身体を強張らせたが、待ってもその衝撃はやってこなかった。
不思議に思って恐る恐る眼を開ければ、とても渋いオジサマな人物がクラウドの身体を支えていた。しかも背中に添えられた片腕一本で。
ぽかーんとするクラウドをよそに、その人物が先に声をかけた。

『あーっとすまねぇな、お嬢ちゃん』
『…こちらこそすみません』

訂正したかったがまずは自分から当たりにいったため謝罪が先だろうとクラウドは謝った。

『いいってことよ!お嬢ちゃんにケガがなくて良かったぜ!』
『俺お嬢ちゃんじゃ…』
『おいおい!これ痩せすぎだろ!ガリガリじゃねぇか!』

クラウドの身体を起こしながらその手がクラウドの背中から腰、そして臀部へと差し掛かった。

『ってお嬢ちゃんもしかして男か?』
『っ!見ればわかるだろ!』

クラウドは男の手を跳ね退けた。

『あーマジかよ…そら悪かったな。すまん!』

あまりにもすっぱり謝るものだからクラウドは呆気にとられてあぁうんとか言ってしまった。

『それにしてもおめぇ綺麗な顔してんな』
『へ…?』
『これなら俺様もイケるぜ?……ってかよ、おめぇがまさかクラウドか?』
『クラウドは俺だ』

何がまさかなのか。男は感嘆の声を上げる。
がしっとクラウドの顔を手で挟み、じっくりと顔を見ながら言う。

『はー!納得!セフィロスの野郎やクジャの奴がはまるのも納得するぜ!』
『ちょ、離してくれ』
『あ、悪ぃ悪ぃ』

即行動し口も悪いが、こちらが嫌がることはしてこない、不思議な男。
そして男の口から出た名前は素通りできなかった。

『あんたセフィロス教授やクジャと知り合いなのか?』
『あん?俺様知らねーか?』

逆に問われ、クラウドは答えに詰まる。

『……すまない』
『あーまーしゃーねぇわな。俺様はほとんど研究室にはいねぇからよ』
『ってことは教授なのか?あ、…ですか?』

ガハハと豪快に男は笑った。

『別にいいぜ、自然体でよ。俺様は歴としたここの教授よ。ジェクトっつうんだ、よろしくな』
『あ、あんたが…』
『なんだ?名前は知ってたのか?』
『いや…たまにセフィロス教授から話を聞くから』

どんな教授なのかと思っていた。セフィロスの話に出てくるジェクトはとても面白そうだったから。

『あの野郎何噂してんだか。クラウド、何かあったら俺様んとこに来い。俺様はおめぇの敵にはならねぇからよ』

ジェクトは意味深な言葉を残して、クラウドの頭を数回撫でてからじゃあまたなと通り過ぎていった。

『敵…?』

何の話だろう。
頭上に鳴り響くのは講義が始まる合図。
早く教科書を取りに行かなくては。
クラウドはジェクトとは反対へ走って行った。




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