夏休みはやっぱり海

バッツの腕が大きく振りかぶりボールが遠くに放たれる。それは弧を描いてゆったりと風に乗り水面に浮かんだ。ぽちゃりという音を合図にティーダが走り出しざぶざぶと海に入る。そしてどんどん流されていくボールにあっという間に追い付いた。
「すげー」
バッツが驚くのも無理はない。水の抵抗をものともしないティーダの動きはまさに水を得た魚だ。
二人を見守るクラウドも嬉しそうだ。できるなら駆け出して一緒に海に入りたい。
「クラウド」
複雑な顔をしたスコールがクラウドの隣に座る。何?と首を傾げるクラウドは完全装備だった。ジーンズにスニーカー、長袖のパーカーはフードまで被っている。荷物番よろしくパラソルの影の下に体育座りをしているクラウドはとても海に来ているようには見えない。
「水、汲んで来ようか」
「頼む」
この強い日差しの下ではクラウドのような白く日焼けできない肌はすぐに火傷を負ってしまう。日焼け止めを塗っても気休めにしかならない繊細な肌を守るためにしっかりと着込んでいるのだ。
スコールは複雑だった。確かにあの格好では余計な声をかけられることはないだろう。だがあれで海を楽しめるのだろうか。熱い砂を踏み締め海に足を入れると生暖かい水の感触と共に叫び出したいような開放感が湧いてきた。そして後ろを振り返りパラソルの下で小さくなっているクラウドを見ると罪悪感が襲ってくるのだった。スコールは大人しくバケツに水を入れ戻った。クラウドは受け取ったバケツをひっくり返すと持っていたスコップで砂を掘り始めた。
「クラウド…」
「アンタも行っておいでよ」
「だが…」
「アンタらが帰ってくる頃には凄いのを作って見せるからな」
嬉しそうにスコップを振り回すクラウドは無理をしているのか本当に楽しんでいるのか分からない。スコールはバケツを掴んで海に向かった。水を汲んで戻るとクラウドの隣にしゃがみ込む。そして無言で穴を掘り始めた。しばらく二人で穴を掘る。隣を見るとクラウドがこちらを向いてふわりと笑った。
「スコール」
「っ、」
「ありがとう」
砂に乱反射した陽の光がクラウドの頬をほんのり赤く焼いていた。強烈な日差しに目眩がする。
「ジュース買ってくる」
スコールはおもむろに立ち上がると砂も払わずに売店に向かった。
クラウドはたまにはっとするような顔をすることがある。まだそれを真っ直ぐに見ることはできない。何かやましいことがあるわけではない。ただ何となくもったいないような気になる。何が減るわけでもない、見ない方がもったいないはずなのだが。夏の強い日差しを浴びながらもスコールの背中は覇気がなかった。

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