嵐の後2

重い足取りでマンションに向かう。大学にいる間はまだいい。集中できることがあると他の事を忘れられるから。家に帰ってしまえば特段やることもなく、考えるのはスコールのことばかり。しかも抱かれたリビングでこれから過ごさなければならない。昨日のことが鮮明に思い出されてスコールのこと以外は考えられないだろう。はあ、とため息をついてみても何も変わらない。気分が下がるだけだと分かっていても出てくるのはため息だけだ。クラウドはマンションのエレベーターに乗るとまたため息をついた。意地にならずにやっぱり一日くらいはセフィロスの世話になれば良かったかと後悔した。別れを切り出したのも自分、最後に抱かれる決断をしたのも自分。全て自分が決めたことだ。考えても仕方がないことなのに。こうなることを望んでいたのに、この虚無感は何だろう。
エレベーターを降りてドアに鍵を差し込む。はあ、とまたため息をついて鍵を回そうとして異変に気付いた。俯いたままの視線の先には自分のものではない誰かの靴がある。今まで人の気配に気付かなかった自分も大概だが、ここまで入ってこられるのは誰だろう。のろのろと顔を上げると今まさにクラウドを悩ませている本人の顔があった。ぽかんと口を開けて間抜けな顔で見ていたと思う。
「スコー…」
「昨日の発言に訂正がある」
「…?」
「俺は絶対にあんたと別れない」
強い視線に射抜かれて思わず背筋が伸びる。それだけだと言い残してスコールは踵を返した。何を言っているのか、頭が言葉を理解する前に体が動く。気が付くと立ち去ろうとするスコールの手を掴んでいた。ぴたり、とスコールの足が止まる。
「あ…ゴメン」
はっと手を離したが今度はスコールは離さなかった。くるりと向き合うと少し余裕を含んだ笑みを浮かべた。
「中に入らないのか?」
入れてくれるんだろう?と言外ににおわせて待っているのを見るとあんなに考えて泣き腫らしたのが滑稽に思えてきた。素直に欲しいと言ってもいいのだろうか。
「どうぞ」
鍵を開けて中に促すと当然のように入ってくる。昨日のようにコーヒーを出すと、スコールが意地の悪い笑みで一枚の写真を差し出した。
「あ…それは!」
ニヤニヤと何も語らない。だが取り返そうとしてもかわされて逃げられてしまう。それでもあれはクラウドの想いの全てだ。
「返せっ」
手を伸ばしても僅かな身長の差で指が届かない。恥ずかしさに勢い余って飛び跳ねるとバランスを崩してしまった。
「わ、っ」
「うわっ」
スコールにのし掛かる形で倒れ込む。咄嗟のことでもスコールはクラウドを抱きかかえて受け身を取った。
「大丈夫か」
「ああ…」
そこで我に返る。さっきまで泣いていて、今は元気に追いかけっこなんかして。一体何をしているんだろう。自分でも知らなかった感情の変化に戸惑う。
「クラウド」
スコールはクラウドを上に乗せたまま抱き締めた。反射的に突っぱねそうになるのを抑えてスコールを見る。ここで自分の気持ち素直にならないと一生後悔することになりそうだ。
スコールの顔がゆっくりと近付いてくる。欲を含んだギラギラした目だ。逃げてはいけない。だがこれから起こるであろう変化が怖くてクラウドは目を閉じた。温かくて柔らかい唇が触れる。スコールはそれ以上は触れてはこなかった。
「…?」
おそるおそる目を開けるとまたあの強い光を宿した瞳があった。一瞬戸惑ったがクラウドも真っ直ぐにスコールを見据えた。
「スコール」
その先の言葉を伝えてもいいものかまだ戸惑いがある。言えば世界が変わる。新しい世界に飛び込むのは怖い。でも言わずに後悔したあの瞬間にはもう戻りたくない。
「オレもスコールが好きだ。でも…怖い」
「俺が隣にいる」
「居なくなったら?」
「居なくならない」
絶対に?と怯える子供のように何度も念を押す。スコールはその都度力強く頷いた。
「怖いから、アンタを忘れたいのにもう戻れないんだ」
クラウドはスコールの胸に頬を乗せた。トクントクンと心臓の音が聞こえる。この音を聞いてこの体温を知ってしまったらもう離れられないだろうとぼんやり考える。
「オレは多分、アンタより子供染みてて嫉妬深いと思う。こんなオレでもよければ…」
よろしくお願いします。
呟きは殆どクラウドの口の中に消えた。スコールには聞こえなかったかもしれない。だがクラウドを抱き締めるスコールは微笑んでいた。

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