嵐の後

最悪だ。頭はガンガンするし、体は関節がギシギシ言っている。涙が枯れるまで泣き腫らした顔は我ながら酷いものだった。それでも講義を休まなかったのは、今まで休んだことがなかったからどうしたらいいか分からなかっただけのことだ。
クラウドは大きめのマスクと眼鏡を掛けて大学構内を歩いていた。下を向いて、知り合いに気付かれないように。気をしっかり保たないと膝から崩れ落ちそうだ。どん、と誰かの肩がぶつかる。下ばかりを見ていて周囲に気を配るのを忘れていたと思いながらも体が倒れそうになるのを建て直せずにいた。
「大丈夫ですか?」
「あ…はい」
膝が地面に着く前に腕を持ち上げられた。決して力強くはない手と知らない高めの声に顔を上げると、かろうじて見覚えのある顔だった。
「立てますか?」
「はい。ありがとうございます」
「顔色が悪いですね。少し休んだ方が良いでしょう」
腕を支えられたままメディカルセンターの方に向かいながらこの見覚えのある女性の名前を記憶の中から探す。ここの職員だということは覚えている。
「クラウド」
突然聞きなれた声がクラウドを呼んだ。クラウドは彼女の名前を探すのをやめて声のした方を見遣る。そこには怒り顔のセフィロスが立っていた。ただの教授と学生の関係というにはセフィロスが過保護過ぎるような気がする。返事をする前にセフィロスはクラウドを彼女から引ったくり抱えて歩き出した。
「わ…ちょっと…」
「暴れるな」
そのまま研究室に入るとどさりと落とされた。だが落ちたのはソファーの上。どうしたものかと考えあぐねていると今度は上から毛布が降ってきた。
「な、何?」
「次の授業まで寝ていろ」
「え…」
「そんな顔で外を歩くな」
マスクをしていても分かる程酷い顔だったのかと慌てて毛布を被る。もぞもぞと隙間から顔を出してセフィロスを見上げると目が合った。厳しい表情をしていたのはほんの一瞬、クラウドが見ているのに気付くとフッと笑った。
「次の授業は午後からだったな。起こしてやるから安心しろ」
クラウドはこくりと頷くと眼鏡とマスクを外してテーブルに置いた。そして寝やすい体勢をさがしてまたもぞもぞと動き始めた。セフィロスが仮眠に使うソファーはさすがに寝心地が良く、また安心できる人の側ということもありすぐに眠気に襲われた。体が疲れているのが分かる。その疲れがソファーと接した部分から流れ落ちていくようだと思いながらクラウドは目を閉じた。





ひんやりと感覚に意識が引き戻される。クラウドは顔に掛かっている濡れタオルを持ち上げた。それはまだ冷たくて、何度も換えられたものだと分かった。この部屋にはクラウドの他にはセフィロスしかいない。腫れぼったかった瞼も少しはマシになったようだ。クラウドはセフィロスを見た。パソコンに向かい、クラウドが目を覚ましたことにまだ気付いていないようだ。授業は難解だし研究も論文も求められるレベルは高い。だが意外と面倒見が良いことも知っている。プライベートの問題も救ってくれる。そこまで考えてクラウドははっとして首を振った。今まで面倒事を処理して貰ったように、スコールの事もセフィロスに縋るつもりだったのだろうか。これはスコールとクラウドの問題だ。誰が解決してくれる訳でもない。自分で考えなければならないのだ。
アラームが部屋に鳴り響く。それを止めてセフィロスがこちらを向いた。
「起きていたのか」
こくりと頷くといつもの意地悪そうな顔で笑われた。
「大分マシになったな」
「すみません」
「恋人にでも振られたか」
「っ…よ、余計な世話、です」
「あまり深入りしないことだ」
軽口を叩きながらも救いの手を伸べてくれるセフィロスには本当に感謝している。だが今だけはその手を取るわけにはいかない。
クラウドは毛布を畳むとソファーに置いた。
「ありがとうございました」
「ああ…クラウド」
「はい」
「あの女には気を付けた方がいい」
「…?」
突然言われても誰のことだか分からない。首を傾げているとセフィロスがため息をついた。
「アルティミシアだ」
「あ、はい…?」
それでようやく先ほど支えてくれた女性がメディカルセンター所長のアルティミシアだったことを思い出す。気を付けるも何もさっき初めて会ったばかりの何の関係もない人だ。また首を傾げつつ、クラウドはセフィロスの研究室を後にした。

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