棚からぼた餅

セフィロスに紹介された不動産屋の営業は愛想が良くクラウドは少し申し訳ない気分になった。少なくとも自分は上客ではない。セフィロスの言うセキュリティが万全の物件は予算オーバーだ。きっと彼を困らせることになる。
「昨日ちょうど良い物件が入ったんだ。築浅オートロック2LDK大学徒歩15分。こんな良いの他にないぜ」
そう言って出された資料を見てクラウドは頭を抱えた。築浅どころではない。つい最近完成したばかりの分譲マンションだ。2戸につきエレベーターが1機配備が売りの高級マンション。とても貧乏学生が住める所ではない。
「いや、あの…」
「まずは見に行ってみようぜ。きっと気に入るから」
言葉を挟む隙も与えない営業はさすがだが、断る時の罪悪感を想像してクラウドは胃が痛くなった。
マンションのエントランスに入ると管理人が観葉植物に水をやっていた。大理石の壁と高い天井を見て強く場違いだと感じた。営業に促されエレベーターに乗ったクラウドは唖然とした。行き先は最上階。どう頑張っても無理だ。
「やっぱり…」
「いいからいいから。見るだけならタダだからさ」
クラウドの事情を理解しているのかいないのか。営業はドアを開けるとクラウドを中に押し込んだ。どうだ、と自慢気に見せて胸を張った。
「モデルルームみたいだろ。家主も住むつもりで家具まで揃えたんだけどさ、急な転勤で全部パー。どう?」
「どうって言われても…」
「ああ金ないんだっけ。予算いくら?」
そんなのここを見せられた後では恥ずかしくて言えない。もう、早くこの場から帰りたい。
「ここじゃなくて、もっと安いところで…」
「うーん、これ以上の条件はないからなぁ」
「もっと狭くても古くてもいいです」
「でもセフィロスに頼まれてるし」
そう言うと営業はどこかに電話をし始めた。ああ俺オレ、なんて凄く親しげだ。
「今学生さんに部屋見せてるんだけどさ、家賃何とかなんない?…ああ…ああ。りょーかい」
通話を終えた営業が振り向きにっこりと笑う。どうしてもここを推したいようだ。
「条件がひとつだけある。キレイに住むこと。壁や床に穴を開けたり、友達を何人も連れてきてどんちゃん騒ぎをしたりしないなら前のところと同じ家賃でいいってさ」
「え…」
「建物も人が住まないとダメになるからさ、貸すってより管理してもらいたいらしいよ」何も傷一つ付けるなというのではない。普通に住んでいて古くなる分には構わない。ただ、男子学生がぞんざいな扱いをして壁に穴を開けたり万年床にカビを生やしたりされると困るというだけだ。
「そういうことなら…」
ようやくクラウドが頷く。掃除は嫌いではないし、プライベートな付き合いをするほど仲の良い友人もいない。ここなら少なくとも下着を盗まれたりはしないだろう。
「じゃあさっさと帰って契約しようぜ。あ、半年に一回フローリングのワックス掛けに業者が入るけど、いいか?」
「はい」
決まったと思ったら少し疲れた。それに早く帰ってセフィロスに報告もしたい。クラウドは店に向かいながら考えた。もう少しセフィロスの側に居たかったなんて少し図々しいか。でももう一晩だけ甘えよう。きっと許してもらえるはずだ。

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