郊外の一戸建て

クラウドはぐるりと天井を見回した。当たり前だが染みひとつない真っ白な天井だ。そして高い。窓には分厚い遮光カーテンの他にも繊細なレースのカーテンがかかっている。ふかふかの絨毯はそのまま寝ても体が痛くなることはなさそうだ。手に持っていた鞄を置いてベッドに座るとこれまた程好い固さで寝心地が良さそうだった。誘惑に負けてぽすんと横になってみる。疲れが抜けていくような気がした。



「クラウド」
目の前にセフィロスの顔がある。近すぎる顔に驚いて身動きが取れない。息遣いが聞こえる距離で覗き込まれて一瞬何が起こっているのか分からなかった。
「あ…」
「ずいぶん深く眠っていたな」
やっと思い出す。半ば強引にアパートから連れ出され、新居が決まるまでセフィロスの家に世話になることになったんだった。あの時のセフィロスの剣幕は物凄くて異論など唱えられるはずもなかった。そして連れてこられた家は豪邸という名が相応しかった。
「顔色は良くなったな」
アパートの煎餅布団とは比較にもならないベッドの寝心地にいつの間にか眠ってしまっていたようだ。今もふわふわと心地良い。
「食事ができたぞ」
起きられるかとの問いに頷く。だが上にのし掛かられている状態では起き上がることができない。どうしたらいいんだろうとぼんやり考えているとくつりと笑う声がした。
「お前、恋人は?」
「え…いません、けど」
どうして今そんなことを聞くのだろう。いろんな疑問が浮かんでは頭の中をぐるぐると駆け巡る。だがクラウドは考えるのをやめた。もう少しこのふかふかのベッドに沈んでいたかった。ぼんやりとセフィロスを見上げてどれくらいの時間が経ったのだろう。
「あの…?」
「さあ、いい加減起きろ」
手を引き起こされる。やっと立ち上がると頭がすっきりしたように感じた。ダイニングに案内されテーブルを見ると、テレビでしか見たことのない光景が広がっていた。
「わぁ…」
思わず声が上がる。ほかほかと湯気を上げる皿をの香ばしい香りにぐうと腹が悲鳴を上げる。そこで最近ろくに食べていないことを思い出した。促されるまま椅子に座ると目の前のグラスにワインが注がれた。
「お前の故郷のワインだ」
ゆらゆら揺らめくワインの色に、昔飲んだ葡萄ジュースを思い出す。村の娘たちに混じって葡萄を踏んだ記憶も蘇り、故郷に一人残した母を思い出してしまった。
「さあ頂こう」
「あ、はい」
カチンとグラスが合う音を合図に夕食が始まる。張っていた気が抜けたところに故郷のワインが出てきたから感傷的になっているだけだ。腹が満たされれば忘れられるはずだ。クラウドは鴨のローストにフォークを突き刺した。
「お前の新しい住処だが、知り合いの不動産屋に適当に見繕っておくように伝えたから明日にでも行ってみるといい」
「はい」
「ずっとここに住んでも構わないが」
クラウドは驚いてセフィロスを見た。この人はたまに質の悪い冗談を言う。こんな時にそんなことを言うと本気にしたくなる。タイミングが良すぎで笑って流すことも難しい。クラウドはグラスを煽った。酔って何も考えられなくなってしまえばいい。

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