先生は心配性

始めは警戒されないように紳士的に振る舞った。必要以上に触れず、辛辣な言葉はなりを潜めた。金色のチョコボは素直な上に頭も良いらしい。教えたことはすぐに吸収し、育成の楽しさを知った。クラウドの可能性を知りたくて、彼の頭脳に合わせた授業は難易度が高くなり、いつの間にかエリート専門講座と呼ばれるようになった。

ふう、とクラウドが力なくため息をつく。ここ最近ため息が多くなった。どうしたと聞いても首を横に振るばかり。暗に部外者に言う必要はないと言われているようでセフィロスの不満は募るばかりだ。
「最近ため息が多いな」
だが聞かずにはいられない。一瞬言葉に詰まったクラウドがおそるおそる顔を上げて笑顔を作る。
「そんなに多かったですか?気を付けます」
どうあっても言うつもりはないようだ。そしてモニターに向かう表情は明らかに疲れている。頑なに口を噤む理由は何なのだろう。
「…おい」
乱暴にクラウドの顎を掴んで持ち上げる。今までそんな風に扱われた事がなかったのか、目を見開いて驚いていた。
「何があった」
「…」
一瞬クラウドの目が泳ぐ。それからセフィロスの目を見て逃れられないと悟ったのだろう、小さく笑わないでくださいと前置きして話始めた。
「最近アパートで嫌な事があって落ち着かなくて」
「嫌な事?」
「はい。郵便受けに怪文書が入っていたり、盗難に遭ったり」
それは確かに休まらないだろう。いずれ学業にも影響が出るかもしれない。だとしたらそういった障害を取り除いてやるのも師の役目だろう。セフィロスは立ち上がると車のキーを取り出した。
「お前のアパートに行くぞ」
「え?」
「いつまでも下らないことで悩むんじゃない。そういうのはさっさと解決させろ」
クラウドを車に詰め込むとアパートに向かう。住所でしか知らなかったセフィロスは初めて見るクラウドのアパートを見上げて絶句した。昭和という言葉がしっくりくる古びた建物だ。
「一階の奥です」
その辺の鍵屋ですぐに複製できそうな安っぽい鍵を薄いドアに差し回すと鈍い音を立てて開いた。中はそれなりに綺麗にしているようだがいかんせん古すぎる。セフィロスは郵便受けからはみ出ていた封筒を抜き取った。差出人はもちろん宛先の住所もなければ切手も貼られていない。誰かが直接持ってきたのだろう。封を開けて見てみるとクラウドを性的対象とした卑猥な言葉の羅列だった。狂気を感じるこの手紙の差出人はここに書いてある通りいつかクラウドを強姦するかもしれない。そして嫌な予感がした。
「おい、盗難に遭っていると言ったな」
「はい」
「何を盗まれたんだ」
「…下着、です」
やはり。クラウドは明らかに変質者に狙われている。セフィロスは改めてドアを見た。いくら鍵をかけていても力いっぱい蹴りを入れると簡単に突破できそうだ。
「…今すぐ」
「?」
大した危機感もなく今までやり過ごしてきたクラウドを張り倒してやりたい。どうしてこんな重大な事を黙っていたのか。
「今すぐ身の回りのものを纏めろ」
「は?」
「引っ越しだ」
こんなところにクラウドを置いてはおけない。今夜にでも危険に晒される可能性もあるというのに。セフィロスは苛々と服を鞄に詰め始めた。

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