出会いinオープンキャンパス
今身に纏っている制服ともあと少しでお別れか、と思ってみたけど、そんなに名残惜しいものでもないな、とジタンは思った。
仕事があったから、高校に通ったのも通常に比べて半分ぐらいなだった。
大学に進まずに、このまま仕事1本にしようかとも思ったけれど、オープンキャンパスぐらいは見ておこうかなという気になったのは、あんなんなのに教育学部の教授みたいなことをしている兄の影響だろうか。
そんなばかな…ジタンは苦笑いを浮かべた。
確かに、あの兄の書く脚本や舞台演出は素晴らしいとは思う。
本人には絶対言わないが。だからといってこの大学に決めたのではない。
この大学がとてもいい設備を兼ね備えている。
演劇や演出を学ぶにはうってつけだ。
(それにまだここに決めたわけじゃないし…)
そうやって自分の中で折り合いをあぁだこうだいいながらつけて、とりあえずオープンキャンパスに来てみたのだ。
もちろん兄は知らないだろう。
『ね、あれジタン・トライバルじゃない?』
『嘘〜っ!あの俳優の?!私子役の時からファンなの!』
『えー!この大学に通うのかな?じゃ絶対私も通う!』
ところどころから聞こえてくるのは、女の子の黄色い声。軽く笑って手を降ってやれば、『きゃー!』とか『ホンモノー?!』とか色んな台詞が飛び交った。
(女の子は可愛いなぁ…)
その時だった。
ドカッ!
『痛ってぇぇ!』
ジタンの頭にサッカーボールが直撃した。
その衝撃に思わずその場にうずくまるジタン。
『あー!悪い!ゴメンな!大丈夫か?ティーダがノーコンでさ』
立てるか?と差し出された手を掴み、立ち上がる。
『あれ?どっかで会ったことあったっけか?』
『初めてだと思うけど?』
『んーそっか!ってかまじでごめんな』
ニカッと笑うその顔に悪意はまったく感じなくて、つられてジタンも気にすんなと言っていた。
『バッツー?!』
向こうから走ってきたのは一見チャラそうな、男。
『ボール蹴ったのあいつな』
『何してんスか??』
『お前が蹴ったボールがこの…えっと、』
バッツと呼ばれた男が、名前なんだっけ?とジタンに聞いてきた。
『ジタン。よろしく』
ニカッと笑い返してみた。
『俺はバッツ!よろしくな!』
俺達はなぜかガチっと握手していた。
(うん、なんか、気が合いそうだな)
『ちょ、展開がよくわからないんスけど…』
側で立ち尽くすティーダに、バッツが両方の自己紹介をさせた後、ボールの話をして、謝るティーダに気にしてないことを伝えた。
『ジタンはココ志望なんスか?』
『んー今のところは』
『ココに決めちゃえよ!楽しいからさ!』
『そうそう!』
二人はジタンに大学の良さを伝えた。
二人がいるだけでも楽しそうだな、とジタンは思った。
『ところで…』
『どうかした?』
『さっきからさ、やたらと女の子たちが後ろをついて来たりきゃぁきゃぁ言ってね?』
『バッツも気になってたっスか?なんか賑やかっスよね』
ジタンは自分のせいかもしれないと思っていた。
『クラウドがいる、とか?』
『マジっスか?!どこどこどこどこどこ!?』
『いないよなぁ〜』
バッツとジタンが辺りを見回してみたが、クラウドという名の人物は見つけられなかったみたいだ。
『クラウドって?』
ジタンが聞いた。
『超美人で!超綺麗で!超優しくて!大好きっス!』
ティーダが興奮気味に語る。
『え!そんな絶世のレディがいるのか?!』
ジタンもその興奮につられていた。
ジタンも美人なレディが大好きだと告白する。
『ぶはははは!!』
吹き出したのはバッツだ。
『どした?』
『い、いや、なんでも…っ!ジタン、クラウドに会うのは受かってからのお楽しみしみにしとけよ!な!』
バッツは尚も笑っている。
ジタンはまだ見ぬ絶世の美女クラウドに思いを馳せた。
『でもクラウドがいないのになんでこんな人が集まってんスかね』
『不思議だよなぁ…』
ジタンが俳優だということに気づいていないのか、知らないのか、二人は心底不思議がっていた。
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