戸締り用心

今日はクラウドが受け持つ授業がない曜日だった。
クラウドは教授らの助手でもあり、学生らの講師でもあるが、院生でもある。
授業がない日や、教授たちにこき使われない日は、自分の勉強や研究を進めるのが日常であった。今日もクラウドは調べ物をしに、図書館や研究室を往復していた。
そして今は、図書館で、机に肘をつきながら、辞書を眺めていた。
いつもならば頭の中に入ってくる文字の羅列が、今日はなかなか頭に入らない。
それもそのはず。
先日のティーダ事件とフリオ事件がまだ彼の頭の中を占めていた。
スコールは『ほっとけ。かえっていい薬になっただろ』とか言っていたが、見られたものは仕方がないが、正直顔を合わせずらい。
さてどうしたものか…

『結構長い間考え込んでるね』
『!セシル…』
いつの間にかクラウドの顔の前に、セシルの顔があった。やっと気づいたね、とセシルはクラウドの隣に座った。
『今取り組んでいるのはそんなに難しい研究なの?』
『そういうわけじゃない…』
『ふぅん。じゃあもしかして、昨日の叫び声が原因…とか?』
『なっ…!』
何で知っているのか。それを言う前にセシルは答えを先に言ってきた。
『兄さんから聞いた。なんか、準備室の方が賑やかだったって』
誰かとは言っていなかったけどね、と。
それを聞いたクラウドは安心しつつも動揺を隠せなかった。
確か、セシルの兄はゴルベーザ教授だ。
もしゴルベーザ教授も研究室にいたのならば、ティーダの声は聞こえただろう。しかし、何があったかは知らないはずだ。
『またセフィロス教授にセクハラでもされた?でそれを見られた、とかかな?』
友人ながらすごい推理力だとクラウドは思った。あながち外れてもいない。
『セクハラは、まぁ…いつものことらしいし』
『そんなんだからクラウドセクハラされちゃうんだよ。ちゃんと嫌がらなきゃ』
…嫌がる、か。
そういえばスコールにも言われたし、次は気をつけよう。
『あ、でも…セフィロス教授がクラウドをセクハラしてるところを学生に見せるとは思えないなぁ…』
またしても恐ろしい推理力を発揮仕出したセシルに、クラウドはなんとか話題を変えようと試みた。
が、結果は惨敗。
『わかった!スコールに襲われたところを誰かに見られたんじゃない?』
セシルはものすごくいい笑顔で、そう言い放った。
『襲われてなんかいない』
『でも、見られたんでしょ?もうクラウド!それこそ気をつけなくちゃダメじゃないか。ちゃんと鍵かけたりしとかなくちゃ』
確かにティーダ事件の反省点はそこだ。しかしフリオ事件では鍵をかけた密室での出来事だったのだ。これはもう自分に落ち度があるとしかいいようがなかった。

『何の話だ?』
凛とした声が頭上から落ちてきた。
『あ、ウォル。本はあったかい?』
友人であるウォーリアが本を片手に二人を見ていた。
『あぁ。少し探すのに時間がかかったが…それより、クラウド。悩み事でもあるのか?』
『え』
『セシルととても深刻そうに話をしていただろう?私も微力ながら何か役立てるかもしれない』
『今ね、戸締まりはしっかりと!って言ってたところだよ』
『あぁ、戸締まりは大切だな』
セシルとウォルの一見かみ合っているようでかみ合っていない話に、クラウドは頭を垂れた。
そしてクラウドは一言、『気をつけます』と呟いた。

そして三人は知らない。
三人から死角となる場所で、またしてもバッツが腹を抱えて笑い転がりながら、今のやりとりを動画撮影されていたことを。
バッツは嬉々として、その動画をスコールにメール送信するのであった。

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