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シード ケスゴム EP-MJ-K
2011/04/10 06:00



建築の多様性と対立性(SD選書174)

建築の本です。原著1966年。小さな図版が多く350点。ページの上段1/4に注釈が載り、栞は一枚で足ります。段落一字空けなし。用語解説は素人には不親切。フライングバットレスとか何のことかと思いましたわ。

 著者ヴェンチューリRobert Venturi 1925-は建築と街路・都市・景観を、単語と文章の関係に喩え、単語が文脈に合わせて語尾変化するように個々の建築もまた周囲に合わせて屈曲(部分変化)すると論じました。
語尾変化も屈曲も英語ではinflectionです。

 グロピウスを始めとする近代建築家は、前近代的な権威主義や産業革命に端を発するヒトと機械文明との軋轢を踏まえ、器としての建築設計に徹し無私の性格を与えてきましたが、そうすればするほど冷徹で峻厳で威圧的な建物になってしまう逆説を生じました。
 著者はとくに、徹底して直線的な高層ビルを設計したミースを批難しています。あまりに四角四面な建物は屈曲しようがなく、そして生気もない。
生気なき巨大構造物にヒトは疎外感を抱く、とまでは述べてませんが「退屈」と評します。
では低層建築ならいいのかというとF.L.ライトも同様です。モダニズムからブルータリズムへ転向したル コルビュジエは評価しています。 そして部分変化できる建築は多様化し(建築様式の)対立を調和しさえする。
「正当な意味での秩序は、現実の事がらの諸々の対立性を受け入れ(略)現実との関係において、強いるとともに、受け入れもする」p79とし、「建築は内部と外部の葛藤と和解を空間に記したもの」p162と言い、ガラス張りで壁を無くすのではなく、内外を隔てる壁で緩衝することを示唆しました。

 本書は近代(モダン)建築を批判し、次の時代=ポストモダン建築論を著した書として有名なのですが、攻撃的な桐敷と違い、行き詰まったモダニズムを再生しようとするジンテーゼに思え、著者の作品を見た後、また「デモクラシーのアポロン」を読んだ後ではモダニストの正統な後継者にすら思えてきます。
といっても端々で対立し「もうこれ以上、正統な現代建築の倫理についての禁欲的なほどのことばに臆することはないと思う。」p34と宣言していますけどね。

 グロピウスは文化的公分母──人文学で言語・宗教・慣習を指すこの術語を常に芸術と結びつけ、「過去のいかなる社会も、芸術家の参加なくして、その意義ある表現を見出したことはない(略)文化の問題は知的な操作や政治的活動だけでは解決できない」(デモクラシーのアポロンp17)として、細分化した社会を有機的につなぐ芸術的心性を求めました。

 著者はこの種の考えに対し、「産業資本は(略)建築における実験には見向きもせず、政府はその補助金を(略)直接に生活水準を上げるための産業分野にはまわさない。(略)建築家はこの事実を認めねばならない。(略)洗練された技術、豊富な資金、最高の努力は皆すべて建築以外の分野に向けられてしまっているこの社会にあって、建築家は、意味深い紋切り型(略)を新たな文脈の中で使いこなす役割を受け入れ、そしてそうした間接的なやり方で、逆転してしまった社会の価値観に対する関心を反語的に表現できる」p89と述べ、空想を語らず建築家に今できることを行おうと諭し、部分から全体を構築する手法を例示しました。
「建築家は部分を組織することにより、意味を発生する母体としての文脈を作り出すのだ。慣習的な部分を慣習にはずれて組み合わせることによって、新しい意味を産み出すことも可能で(略)、文脈に変化をもたらすことができる。」p86 部分=建築、文脈=景観を意味します。
 それは雑多な景観を生ずるのですが「ごく普通の都市景観をその平凡さと俗悪さのゆえに怒り否定する建築家とか計画家は、(略)既存の景観をより魅力あるものにすることも、またそれにとって代わるものを作ることもできない」p90と雑多ゆえの活気を讃えます。

 ポストモダンは結局「秩序なき場当たり主義」p81に解釈され、全体像を欠いたまま反モダンに終始しモダニズムの派生に終わりました。
 著者がアメリカ人のため、欧州発の近代建築に対する米国の対抗心の表れがポストモダンという見方もあります。→曖昧なる明晰──ヴェンチューリの折衷神話|大島哲蔵|10+1 DATABASE
 市場原理に従い競争を延々と繰り返すのはシャーペン芯に限らず、消しゴムも例に漏れません。
これはその外見から、またカドを珍重する習俗から学童らが興味を示しそうな、しかしMoMAコレクションには選ばれそうにない、消の字型消しゴム。非塩ビ系、全5色。日本製。
 小さな穴も途中で塞がることなく成形されています。
素材が軟らかいためカドがブレやすく、消しかす切れが悪い反面、消しかすがまとまりやすく、また紙面上の黒鉛を引き延ばさず紙面が黒ずみません。


 ミリケシと比べれば本品は細部を消しにくく消字力も若干劣りますが、紙面を黒ずませない点で優ります。
ちなみにミリケシはいい具合に使いづらくなってきました。



 SEEDは塩ビ消しゴムと修正テープ、最近は古紙再生装置を開発し、日本字消工業会事務所を本社内に擁する企業なのですが、こんな商品の企画を通す行為には敬服します。
 しかし本品の軍門に降るのを不名誉と感じる方もおられることでしょう。そんな方には同素材と思われるトンボ モノNPをお薦めします。


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