12Q 1
近頃、白美は用事が無い限り、黒子、火神達と共に昼食を摂るようになっていた。

だから今日も隣のクラスに移動し、窓側から2列目後方の椅子を拝借して、机に自持ちの弁当を広げる。
彩り、品目、栄養共に極めてバランスのとれた白美の弁当は、彼等に白美が徹底的に自身のフィジカルを管理していることを印象付けていた。

だが、いつにも増して大量のパンを食す火神の隣、黒子は白美の弁当がいつもよりその量を増していることに気が付く。

「二人とも、いつにもまして食べますね」

黒子は昼食のサンドイッチを片手に、通路側に身体を傾けて尋ねた。
火神は牛乳を、白美は水筒のお茶を一口飲むと、揃って振り向く。

「むしろお前の方がよくそんだけで足りるな」

「普通ですよ」

「うん。黒子からしてみれば普通だろうね。ただ自分から言わせてみれば、まさに『eat like a bird』だよ」

「おっ、しらが、発音いいのな」

「そうかな。因みに今日の弁当が多い理由は、部活で本格的に動くから。お腹が空くだろうと思って。ていうか、中学の時はもっと食べてたと思うけど」

指摘されて、黒子は「そうだったかもしれません」と呟いた。
白美は柔らかく苦笑すると、火神に顔を向ける。

「で、火神はどうしたの?」

「昨日2試合やって、腹減ってんだよ」

白美の問いに答えると、火神は再びロールサンドに齧り付いた。
すると負けじと、黒子が言う。

「僕もちゃんと筋肉痛ですよ」

「ちゃんとってなんだよ。まぁ、俺もだけどよ」

火神は、口の中のものを飲み込んで言うと、ぐうっとその場で伸びた。
だがそれを見て、白美は「へぇ」と口角を上げた。
普段の白美らしからぬその声音に、黒子は目を細め、火神は眉間に皺を寄せて白美を見る。

そうすればあろうことか、白美は机に肘をつき、頭に手をあてて火神を眺めていた。
口の端に浮かんだ笑みが、どこか挑みかかってくるようなそれで、火神は「っ」と声を漏らす。

「黒子はともかくとして、あの程度の試合を二つ重ねただけで筋肉痛とはまだまだだね。それに、例えなったとしてもその後のケアがしっかりしていればそれで終いだと思うよ」

「んなっ!」

――「あの程度の試合」、「まだまだだね」。
白美の口から出た驚きの発言に、火神は目を見開いた。

白美は姿勢を正すと、あろうことかそれを見て、肩を竦めてわらう。

「まぁ、とは言ってもよく知らないならケアのやり方は教えるし、下手に筋肉鍛えて身体壊されても困るからね。火神は実戦で余裕を持つためにも、今の練習にプラスで、もう少し自主的に技術を磨いた方がいいと思うよ。それから戦術のレパートリーもまだまだ薄いから学ぶべき。体当たりもいいけど、バスケはチームでやるスポーツ、仲間のプレイに対してベストな動きを取捨選択する為にも、相手の弱点を探り突く為にも――苛ついてちゃいけないな。理屈は欠かせないよ」

そう言われて、火神は驚きに言葉を失った。
白美が火神に言ったのが、まるで、否、まさに上からの目線に基づく言葉だったからだ。
それも敵からの挑発のようなものではなく、例えるなら遙か高みにいるコーチが、選手を指導するような。

(俺の弱い部分も、ちゃんと、わかってやがる)

その上、白美の眼がまるで何もかも見透かすようなオレンジの光を放っていて、ごくり、火神の喉がなる。

白美は、数拍の沈黙の後、パンを片手に硬直している火神を見てフッと笑った。
それから何時の間にか食べ終えていた弁当を片づけ、席を立つ。

「じゃあ今日の部活でね」

そう言って白美は、颯爽と1Bの教室を出て行った。





その後、火神と黒子は教室の前を通りかかったリコに、去年の王者たちの試合映像がおさめられたDVDの詰まった箱を移動するのに持たされていた。

そこで、火神はリコの「分析し過ぎなんてことはないわ」という言葉にハッとする。
――「戦術を学べ」、「理屈は欠かせない」。
さっきは驚いて考える余裕はなかったが、なんだか悔しいから、実際自分がやるかどうかはともかく、チームや相手の為に少し敬遠しがちだったそういう勉強もしてみよう、と火神は思った。


(advice)

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