24Q 1
「橙野くん、大丈夫?」

 傍らから聞こえてきたリコの声に、白美はゆっくりと頭をあげた。
 安心させるように柔らかく微笑んでみせる。

「ああ、すみません。一気に気持ちが緩んでしまって、なんていうか、疲れが。足もしっかり休めてあげなくちゃ」

 情けないな、と苦笑してみせる。
 リコは答える様に微笑むと、白美の肩にそっと手を置いた。

「ありがとう、橙野くん。お疲れ様」

 純粋な労わりの言葉と表情だった。白美はふうと一息ついて、少し離れたところから心配そうに自分を見ている黒子や火神、日向にも微笑みを向ける。

「いい試合になりましたね。お疲れ様です」

「おう! ただ橙野、怪我は大丈夫なのか? 結構無理したろう」
 
 真っ先に日向に突っこまれる。白美はまた苦々しくわらった。

「ちょっと、気持ちが先走ってしまった感じはありますね。だけど、自分が思っていたより動けるみたいです、この足」

「んん、それって無理したってことじゃねえのか」

「大丈夫ですよ、痛みもありませんし、今は、ちょっと疲れてるだけですから、本当に。心配してくれてありがとうございます」

 白美は嬉しそうに笑って、今度は火神に目を向けた。

「火神こそ、足、大丈夫なの? 無理して何回も跳んで……」

「あ……、あ……」

 すると火神は、途端に目を見開いてぷるぷる震え始める。

「おい、どうした火神」

「やべえ、やべえ、しらがが変なこというから、くっそ、やべえ」

 あーあ、と白美は笑い声をあげた。

「なっ、てめ、何がおかしい」

「火神、まだテンションが高いうちに、早急にロッカールームに戻れ。このままだと疲れが回って動けなくなる」

「な! な、そんなことねッ――!!」

 一歩踏み込んだところで火神は早々にふらついた。日向やリコは笑いながら、火神の背中を押す。

「仕方ないわね、皆、そろそろ行くわよ」

 そうしてぞろぞろと引き上げる中、白美と黒子は末尾を歩いていた。

「橙野くん」

 黒子の短く小さな呼びかけに、白美は「ん?」と微笑みを向ける。
 真剣な真顔に向かって、にっこりと笑いかけてみせる。

「……、橙野くん、今日の試合は――」

 白美は満面の笑みを浮かべた。

「本当にいい試合だったね、中々に厳しかったけど。俺も勝つんだって、思わずテンションが上がって、無理をしちゃったかも。だけど、この足でも、まだまだやれるってことかもね」
 
 汗をキラキラと輝かせながら、白美は眩しく笑う。
 黒子は言葉を失った。目を瞠っても、瞬きをしても、白美の笑顔は嘘ではないらしい。

「橙野くん、何言って――」

 黒子は心から問うたが、白美はにこにこと笑いながら、軽い足取りで黒子のもとを離れていく。
 
 引きとめなければいけなかったのに、黒子は、衝撃で動けなかった。 

(rejective)

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