16Q 1
白美は、今までになく警戒していた。
もしここで火神がファウルを取られたとして、そうなれば火神は4ファウルで必然的にベンチを余儀なくされる。5ファウルになれば退場であり、それに迫る状況でのプレイ続行は避けるべきであるからだ。
つまり実質上、火神はこれ以上のファウルを許されないということ。
そもそもファウル自体は気を張ればそう頻発するような事ではないが、火神は苛立っている。そして白美は津川の様子を観察した結果、彼がそれを故意に狙っているという推測を得た。
このままでは、火神と黒子の「コンビ」という大きな戦力を、この試合で失うことになる。
無論、火神や黒子は前半で引っ込める予定だったし、先輩達の雪辱戦をということに白美も賛同していた。
しかし、勝利を目指すからには、そこに確実性というものを求めてしまうのは理外の理だ。落とすわけにはいかないこの試合。
いくら相手に対して準備をしてきたといっても、その基礎力はここで王者と呼ばれるそれであることは白美も認めていた。
そこでもし、先輩達の戦力に不足が生じたとしたら。間に合わなかったとしたら。
布石は打ってある、信用をしていないわけではないが、勝負は何が起こるかわからない。
最悪、再び火神と黒子の力が必要になるかもしれない。
彼等はいわば「保険」といえど、白美としてはそのカードを失うことは避けたかった。
ここで火神・黒子というカードを使えなくなれば、「もしも」の時――。
火神を今すぐにでも引っ込めたいという発言は、そういう思いを以て放たれたものだった。
けれど、白美はどうやら間に合わなかったらしい。
試合再開直後、火神は日向からボールを得る。
が、なにやら津川の様子がおかしい。
「チッ……」
白美は突如舌打ちをして、コートを睨みつけた。
津川が仕掛けてきたのが手に取るようにわかったからだ。
隣からリコの驚いたような視線を感じるも、気に掛けることはなかった。
そして案の定。
(なんだ急に――、全然プレッシャーかけてこねぇ。止める気もねぇのか? 何考えてようが知るかっ! 上からぶち込んでやる!!)
「駄目だ! 行くな火神っ!!」
日向の制止の声も虚しく、火神は力任せの攻撃に出た。
果たして、津川は火神にぶつかってその場にしりもちをつく。
間髪入れずにピピーッと笛が鳴り、「オフェンスファウル! 白、10番!」という声がした。
「あっ……!」
火神もようやくハッとするが、もう遅い。「4」の数字が掲げられている。
「4つ……、うわあっ! 4っつ目だ!! 誠凛のスコアラーがファウルトラブル!!」
騒然とする誠凛の不安を煽るように、会場がわっとざわめく。
(コイツ……、わざと!!)
何をされたのかわかった火神は、貌を歪めて津川を振り返る。
そうすれば、してやったりなにやにや顔が嫌でも目に付いた。
――懸念していた事態が起きた。火神は津川の作戦に引っかかり、ファウルを取られてしまったのだ。
もう、後は無い。
「バッカ!! 何やってんスかもぉ〜お……」
これには、黄瀬も思わず声を荒げたのち、脱力してシートからずり下がった。
「こりゃ引っ込めるしかねえなぁ。のこり一つじゃビビってまともにプレイはできねぇ」
笠松の言うとおりだ。
★
白美は、リコの隣で大きなため息をついた。
「ハァ……。津川、やってくれますね。――まさかここまで火神が簡単にとはもう少しくらい周りを見てもいいとは思いますけどね」
リコも参ったと後頭部をさすりながら、大きく息をついた。
「だはー……」
「まだ第2Qっすよ〜?」
「ばっかたれー……」
しかし、それは今後の課題として、起こってしまったことはどうしようもない。
困ったことになったと、白美は頭を悩ませた。
とはいえ、先輩達が善戦をすれば問題ないのだが。
様子を見ながら、随時手を打つしかなくなる。
それより取り敢えず今は、プレイ続行を望むであろう火神を納得させる必要があるだろう。
(どーせ、出せ出せ言うんだろうなァ……。まぁ、その猪突猛進さもいいとこなんだけどさ――)
白美は、メンバーチェンジの為立ち上がった先輩達と同様、ベンチから腰を上げた。
(4fouls)
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