13Q 3
 時は、少し遡る。

 授業後。東京都高校バスケ界、東の王者である秀徳高校の廊下の窓辺にて、バスケ部1年レギュラーの二人組が会話をしていた。

「DVD?」

「嗚呼、正邦のな。俺らだけ1年レギュラーで、何も知んねぇからなー」

 そう言って窓辺に手をつく黒髪、高尾の片手には、一枚のDVDケースが握られている。
 が、隣に立つ緑間は、「興味ないのだよ」、とオレンジに色付いてきた窓の外を真っ直ぐ見つめるだけで、そこに注意をはらおうとしなかった。

 オレンジ色――『あの気に喰わない男』が嫌でも緑間には連想された。

 高尾は、少し察したのだろう。

「黒子や火神――それからー……えー、誰だっけ? トリックスター? がいないからって、そう言う事いうなってー。決勝はむしろ、こっちが本命なんだからさ。今日はオフだし、帰っても暇だろー?」

 一応尋ねるが、所謂修辞疑問文という奴だ。返事がどうであれ、高尾は緑間をみすみす逃がすつもりはなかった。

「否――」

「決まりっ!」

「……おい」

 そうして緑間は、正邦の試合DVDを見るのに付き合わされることになった。

 確かに、対戦相手の試合を事前に見ておくことは、緑間にとって「人事を尽くす」ことだった。

 けれど。

 緑間には、黒子、そしてなんであれ、あの男がいるチームがこの段階で負けることになるとは、どうしても思えなかった。

 白髪に、自分たちの知るそれとはまるで違う所作。
 対して変わらない、何を考えているか全く以ってわからない、橙の双眸。

 彼があの頃のままだとしたら、そこには何か必ず狙いがあるはずなのだ。

 緑間は、考え過ぎかもしれないとは自覚していたが、あの「怪我」自体疑わしいと思っていた。
 もし、あの怪我すら、偽りだったとしたら。

――あの男は、今まで幾人ものプレイヤーたちを――その心を、壊してきた。緑間はそれを知っている。

 その矛先がもし、自分たちに向くのだとしたら?

 自分は、折られるつもりは毛頭ない。負けるものかと思っている。

 けれど、チームの他の連中は。




――警戒しておかなければ、と思った。


(Watch out)

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