09Q 7
「なーにをやっとんじゃぁ〜〜〜!?」

「黒子っち〜〜ぃッ……!」

 その直前、白美、黄瀬、火神の三人は、明らかに力負けしているであろうに乗り込んで言った黒子をフェンス越しに見て、各々呆れと驚きの入り混じった声をあげていた。

 飛んで火にいる夏の虫にも程がある。
三人全員が思った。

 と、黄瀬が、隣に白美が居ないことに気付き、ハッとコートを見たら最後。

「あぁあぁあ〜」

 黄瀬は、コートに瞬間移動したとしか思えない白美が微笑んだままブチ切れていることに気付き、脱力しきったリアクションをした。
――火神がいるかまだ大丈夫かもしれないが、正直何が起こるかわかったもんじゃない。

 そして現に火神は、白美の様子に顔を引きつらせていた。

「っちょ、黄瀬、しらが怖くね!?」

「――しらがってまた変なあだ名ッスね。まあ確かに白髪ッスけど……。いや、ね。昔っから、大方の暴力はあの人にとって地雷なんスよ」

「詳しいんだな。まあいいけどよ、ハッ、しらが、紳士なのは昔っからかよ」

「あー、いや、紳士とかそういうのはちょっと、いやカナリ違うと思うんスけど――って、っちょ、黒子っちぃいい!」

 いかにもガラの悪そうな連中を前に、黄瀬達がドキドキハラハラで茂みからフェンス越しにコートをうかがうその向こうで、早速大柄な男が黒子の胸倉を掴みあげた。

「あぁ〜!? イキナリ何だテメエらッ!」

 白美は細身でいかにも頼りなさそうに見えるが、背が高いので一先ず退けられたが、一同は白美をガンガン睨んでいる。
 にも関わらず平然と微笑んでいる白美に、黄瀬は流石だと感心し、火神は嘘だろーとまた瞠目する。

 その時、黒子と男の後ろに立っていた茶髪に水色のシャツの男が、口元を押さえて嗤い始めた。

「フッハハハハハハ、いんだね、イマドキ」

「……?」

「いいぜ、別に」

 それを聞いて、大柄な男は黒子を睨みつけたまま地面におろす。
 茶髪の男は、にやにやと黒子と白美を嘲って、言った。

「じゃあバスケで勝負してやるよ――、……――」

 そして、黒子の頭に手を置き後ろに聳えた火神、及び黄瀬の姿と、眼鏡を外した白美から悍ましいオーラが放たれているのを見て、固まった。

「あの〜、オレらも混ざっていいッスか?」

「つ〜か、何イキナリかましてんだテメェ、それにしらが、お前バスケできんのかよ」

「ちょっとくらいなら」

 4人の言葉は、彼等にとってもうどうでもよかった。
 ただ……。

「でけぇ……!!」

「なんじゃぁあ!?」

 自分たちより頭一つ飛び抜けた者が3人、よく見ればひょろいと思っていた白髪はそこらの不良よりよっぽどヤバそうな眼をしているし、まぁ、やばい。
 彼等は盛大にビビった。

「5対4でいいぜ。1人はまだあんまバスケできねぇし。かかってこいよ」

「なんだとォッ!」

 連中は、火神やその後ろで笑う黄瀬、無表情の黒子、なんかヤバい白美に睨みかかったが、そこには大きな動揺や焦りが見て取れた。
 白美の口角が上がる。

「――タイガーがいるのがちょっと残念」

 黄瀬は耳打ちされて、ハァ、とため息をついた。
――彼がバスケ遊ぶには、まぁ確かにこんな相手が丁度いいのだろう。

「まぁ、いいぜ。初心者? 俺らあんまなめんなよッ!」

「うのっちは立ってるだけでいいッスよ」

「しゃあね、りょか」

 すると、茶髪が白美を睨み、言った。
 どうやら火神の『まだあんまバスけできない』という言葉を初心者と誤解したらしい。

「お手柔らかにお願いします」

 白美がそれに応えるようにニタリと笑って言う。
 そして間もなく、ボールが宙に放たれた。
 火神を前に下手に動けない白美と、相手。ボールを奪ったのは相手の方だった。

 茶髪の彼が弾かれたそれをキャッチし、ニヤッと笑う。
 しかし、次の動作へ進む暇もなく、すかさず黒子が彼の手からボールを奪った。

 ボールは瞬息で火神の手へと渡り、火神は相手のブロックより相当早く、ボールを連中の中佇む白美に向かって放つ。
 相手はそのボールをカッとしようと動いたが、白美がボールを手に収める方が一歩早かった。

 白美は、そのまま実に滑らかでスキの無いフォームで、リングまでなかなかの距離があるにも関わらずシュートフォームに入る。
 足は、地面にしっかりついたままだ。

 それを見て事前の火神の言葉を思い出し、白美のブロックについていた一人はにやっと嫌な笑い方をした。

「ジャンピングシュートじゃねえとか、なめんなよッ!」

 声をあげ、ボールが白美の手を離れる瞬間、腕を伸ばして宙に跳躍する。

「ざっまぁ――、ッ!」

「フッ」

 しかし、広がった男の掌にボールが触れることは無かった。
 男は嘲笑を失い、代わりに瞠目し地に墜ちる。
対し、白美は薄らと口角を上げた。
 その眼の奥に燃えるものを見たとき、相手の男は呼吸すら手放していた。

 して、男が着地するのと同刻。
 白美からのパスを受け取った黄瀬が、ボールをその掌からリングに押し出した。
 相手の連中がハッと驚いて注目する先で、ボールは掠ることもなく綺麗にリングを通過する。

(うっわ、俺も今の騙されたわ。うっめぇなしらが)

(流石帝光一のフェイクの使い手です)

(ボール来て一瞬ヒヤッとしたッスわ)

 こうして鮮やかかつ見事なフェイクで味方からも相手からも注目を集めた白美には、早速マークが二人つく。
 しかしその分他の3人、特に黄瀬と火神へのマークが手薄になり、元々薄っぺらかった盾はそれはもうあっさりと矛に突き破られた。
 その後も、ちょいちょい起こる白美のフェイク、ノンストップで続く黒子のミスディレクションに黄瀬、火神の強烈な攻撃により、4人の手によってボールがホイホイリングを通過した。
 ただでさえハイスペックかつ長身の黄瀬、火神と変化球黒子、そして見事なフェイクを噛ます危ない香りの白美。
 5人など敵ではない。

 そしてあまり動いていない白美を除く3人は汗を散らし、黄瀬と火神――他ならぬ白美に関しては実に楽しげな笑顔でプレイを進めた。
 

 結果。


 5人の不良はコートにハァハァ言いながら横たわり、だらしない姿を晒した。

「瞬殺ッ……!!」

「すっげぇ……!!」

 コートとフェンスの間の狭い隙間で様子を見守っていた3人の男子は、唖然として、彼等と、彼等を背に悠々と歩いて行く4人の姿を見送ることとなった。






(have a good sweat)

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