05Q 3
 その直ぐ後。

 誠凛バスケ部では、マネージャーの白美の不在により準備に手間取り、少し遅れて1年vs2年の実戦練習が始まっていた。

 降旗がボールを黒子にパスし、黒子はゴール付近の火神にボールを送る。
 火神vs伊月。

 しかしそこで火神はフェイントをかけて右に行くと見せかけ、左からゴールへと抜ける。

「いや、まだだっ!」
 
 伊月は直ぐに気付いて火神にくっついて走るが、火神はそこで切り返し左回りにドリブルをして伊月を避けると、大きく飛んで豪快なダンクを決めた。
 「はやっ!」と叫びが上がる。

 「ふっ」と黄色い髪の男が口角を上げるが、彼らは火神のナイスシュートに気を取られていて、それに気付かない。

「すげえな、フルスピードからあの切り替えし! キレがおんなじ人間とは思えん!」

「もしかしたら、キセキの世代にも勝ってるかもなー」

「今のなら、マジでキセキの世代倒せんじゃねぇ?」

「あんな動き、そうそうできねぇって!」

「むしろ、もう超えてるかも!」

 チームメイトたちは、火神のスゴ技を見て興奮した素振りで口々に言う。

「……」

――今のままの完成度では足元にも及ばない――、キセキの世代は、ハンパじゃない。
 彼らの様子を見て、そんなことは言ったが……、と黒子が考えていると、リコが笛を吹いて収集をかけた。
 知らされた対戦相手は、「海常高校」。
 全国クラスの強豪校にして、IHにもホイホイ出ている相手だ。

 そして。

「海常は今年、キセキの世代の1人、黄瀬涼太を獲得したところよ〜」

 リコの言葉に、一年は「えっ」と肩を強張らせた。

 無表情の黒子に対し、火神は「まさかこんなに早くやれるとは、ありがてぇ、テンションあがるぜ」と好戦的に笑う。

「しかも、黄瀬ってモデルやってるらしいぞ」

 日向がぼそりと言った。

「まじ? すっげぇ〜!」

「カッコよくてバスケ上手いとかマジ酷くねぇ〜?」

 嫉妬する小金井を前に、リコは「アホ」とため息をついた。
 それに、モデルといえば、我が誠凛バスケ部の新マネージャーがやったことあるとか言っていたような、と思い出す。

「我らがマネージャーも、そういえばモデルやった経験あるって言ってたわ」

 と、リコが言うと。

「えっ、マジ!? しらがが!?」

「イケメン爆発しろ」

「僕も知りませんでした」

「しらがって何よしらがって」

 一同驚いたが、特に黒子と火神に関しては更に驚いていたようにリコには見えた。
 しかしリコはやけに騒がしいな、と体育館の舞台と入口の方に視線を向ける。

 すると、なんということでしょう。
 並ぶ、女子、女子、女子、女子、女子。

 皆キャアキャアザワザワと黄色い声を上げ、なにやら色紙まで持っている人もちらほらではないか。

「んだ?」

 火神が呟く。

 というか、二階の窓の前方スペースにも、わっさわっさと女子が居るではないか。

(あ、あんなところに橙野くんみっけです)

 しかも、その中には黒子の観察眼を以てして漸く見つかるほどひっそりと、眼鏡で変装したらしい橙野も交じっていた。

 なにがおこった、と男バス一同はその女子達の視線の先を見つめる。

「え? 何? なんでこんなにギャラリーできてんの?」

 リコは混乱し、列の先頭の女子の群れの中を見つめた。
 そして、気付く。
――黄色い髪に、灰色のブレザーの男。

「あぁ〜、もう、こんなつもりじゃなかったんスけど」

 男は、苦笑いしながらサインを迫る女子に色紙を渡した。

「アイツは……?」

 そう果たしてそこにいたのは、他ならぬ――黄瀬涼太。
 何故ここにいるのだと驚くリコの傍らで、黒子はじっと黄色い髪の彼、黄瀬を見た。

「お久しぶりです」

 黒子に挨拶され、黄瀬はサインを書く手を止める。

「久しぶり」

「黄瀬涼太……」

 男バス一同は、緊張した面持ちで突然現れた目の前の男を見た。

「すいません、まじで、えと、あの……」

 すると黄瀬は、困った様子で頭を掻く。

「っていうか、5分待っててもらっていいスか」

 黄瀬は周りの女子に謝り、彼女たちに一時退却をしてもらった。

「よっと」

 組んでいた足を解くと、黄瀬は腰掛けていた舞台から飛び降り、両ポケットに手を突っ込んだまま黒子たちの方を向く。
 その麗しい顔には、余裕の笑みが浮かぶ。

「な、なんでここに!?」

 一方日向は、半ば驚きで固まりながら、黄瀬に尋ねた。
 確かに、唐突に本物のキセキの世代の1人にやってこられて、知り合いでもない限りサラッとそれを受け止められる方がおかしいと言えるだろう。

 しかしそんなことは気にしないようで、黄瀬は、優しげな微笑みを浮かべたまま、ゆったりとした足取りで舞台から彼らの前に歩みを寄せた。

「いやぁ、次の相手誠凛って聞いて、黒子っちが入ったの思い出したんで。挨拶に来たんスよ」

 黄瀬は、にこっと笑いながら黒子の前で足を止めた。

「中学の時、黒子っちは一番仲良かったしねー」

「普通でしたけど」

(良く言った黒子!)

 白美は壁の影から、「ひっどぉ!!!」と涙を流す黄瀬を見て喜んでいたり。
 その頃、男バスの後ろの方では、部室から持ってきていたらしいキセキ特集が載った月バスを、一年三人がそろって覗いていた。

「黄瀬涼太、中学二年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで、瞬く間に強豪帝光でレギュラー入り。他の4人と比べると、経験値の浅さはあるが、急成長を続けるオールラウンダー」

 日向は、驚きで口をあんぐりあけた。

「中2からっ!?」

 黄瀬は、恥ずかしげに頭を掻く。

「いやっ、大げさなんスよ、その記事〜、ホント。キセキの世代なんて呼ばれるのはホント嬉しいけど、その中で俺は一番下っ端ってだけですわ。だから、黒子っちと俺はよくイビられたよな」

「ボクは別になかったです」

 黒子に言われ、黄瀬はまた「オレだけぇえええ!?」と笑い泣きした。

 と、暫くしたところで、ところで、と黄瀬が黒子を見た。
 そんな黄瀬の目は、一瞬前とは打って変わってどこか遠くを見ているようで。

「涼ちゃーん……」

 十中八九自分の話だろう、と白美は影でふうっと大きなため息をついた。
 そうすれば案の定、黄瀬は黒子に寄って尋ねる。

「黒子っち、うのっち今どうしてるか、聞いてないッスか」

――そのあだ名使う様に躾けておいてよかった、と白美は思った。
 その視点で行くと、「しらが」もGJ火神であったりする。




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