24Q 3
「さー、帰ろっかー!!」

「いや、ちょっと、」

 明るく元気に扉を開けたリコに対して、日向がぴくぴくと震える手を伸ばして、制止の声をあげる。

「いや、ちょっと、ごめ、まじ、待って。二試合やってんだぞ、しかも、王者」

 ぷるぷると震えながらやつれた顔をして、掠れた声で日向が言う。
 他の伊月、小金井、水戸部も同様で、彼らはさながらゾンビのようだった。

「あ、ごめん……」

「俺らは少し休めば大丈夫だけど、火神がなあ……、無茶したし」

 日向が椅子に腰かけて視線を向けた先、火神は地面に腰を下ろしてぴくぴくしていた。

「ご覧の通り生まれたての虎です」

 脇から白美がからかいの声をいれる。
 火神は白美を睨む余裕もなく、「動くどころか立てねえっす……」と声まで震わせる。

「でもー、いつまでもここにいるわけにはいかないしー……」

 リコは困った顔をする。白美は携帯を手に、笑顔で口を開いた。

「取りあえず、どこか一番近い店に入りましょう。腹も空き頃ですし」

「そうね、橙野くん。それがいいわ」

 そうして一年トリオ三人は先に控室の外に出る。

「火神くんは誰かおんぶしてって」

「じゃあじゃんけん」

 白美を覗くメンバーでじゃんけんをして、白美達は一番近くにあったお好み焼きの店に入った。


 
 引き戸を開けると、空腹を刺激する香りがどっと白美たちに襲いかかった。

「すみませーん」
 
 リコが先頭で入り、呼び声を上げる。
 威勢のいい店員の声が、リコ達を迎えた。

「いらっしゃーい!! ……あらお客さん多いね」

「十二人なんですけど……」

「ちょっと席足りないかなあ」

 リコと店員の会話を聞きながら、白美は隣のびしょびしょな火神を笑う。

「覚えとけよ黒子……雨ん中おとしやがって」

「すみません重かったんで」

「まあまあ、ああ火神、その服だと店に迷惑だからほら、シャツと短パンに着替えて」
 
 差し出したそれを火神が受け取ったところで、白美はぐるりと店内を見渡し、そして奥のテーブルでこてを咥えている姿に既視感を覚えた。すぐに目もあって「あっ」と声を上げた横で、火神も気づいたらしい、「黄瀬と笠松!!」と大声を上げた。

「呼び捨てかおい!!」

「うぃーっす。あ、黒子っちうのっちもやっほー」

「……おう」

 黄瀬は明るく挨拶をしてきた。でも白美は申し訳程度に返すだけで、黄瀬から顔を背けてしまう。

「ありゃりゃ、うのっちってこういうところで素が出るんスよねえ」

 そんな白美を、黄瀬はクスッと笑った。

(Why are you blushing?)

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