02Q 5
 学校帰りの火神は、朝と同様に公園のバスケットコートで1人、自主練習をしていた。
 朝も、部活も、帰りも、バスケ。

 つまるところこの火神大我――、生粋の、バスケバカ。

 何回目になるだろうか。
 シュートして落ちてきたボールをキャッチすると、ドリブルで一気に3Pラインまで走り、身体の向きを変えて、ジャンプ。
 そして、シュート。

 だがその瞬間、イレギュラーが起こった。突如視界が揺れたのだ。
 まるで、見えない何かに阻害されたような感覚に陥る。

「あっ」

 火神が放ったボールはガン、とリングにぶつかって跳ね返り――、立っていた黒子の手の中に納まった。

「お前、いつの間に。それに、お前は――しらがか」

「どうも」

「こんばんは」

(っつかしらがじゃねえよ)

 火神と黒子が、数メートルの距離を取って対峙する。そして、フェンスの向こうには白美。

「お前ら何やってるんだ」

「君こそ一人で、何やってるんですかっ」

 黒子は、ボールを火神に投げた。火神は、ボールを両手でキャッチして言う。

「別に、何もやってねえよ」

「そうですか」

 数秒間の沈黙の後、火神が口を開いた。

「俺は、中2までアメリカにいた。それが、こっち戻って来て愕然としたよ、レベル低すぎて」

(……)

「俺が求めてるのは、お遊びのバスケじゃねえ。そこのしらが、お前が考えてやがるのと同じか違うかは知らねえが、俺はもっと全力で血が沸騰するような勝負がしてぇんだ」

 火神は、白美をちらっと見た後、黒子を鋭い眼差しで睨みながら言った。

 三人の間を、強い風が音を立てて吹き抜ける。
 白髪が、とりわけ風に揺れた。

「聞いたぜ。同学年にキセキの世代って、すげえ奴がいたらしいじゃねえか。んで、そこのしらがはその一員。でもってお前はそのチームにいたんだろ? 俺もある程度、相手の強さはわかる」

 そう言って火神は、右手の人差し指でバスケットボールをくるくると回す。

「やるヤツってのは、独特の臭いがすんだよっ」

 そして、ボールを黒子に向かって放った。

「が、お前は――いや、後ろのもだ。お前ら二人はおかしい。弱けりゃ弱いなりの臭いはするはずなのに、お前らは何も臭わねぇ。強さが無臭なんだ。しらがが駄目ならお前でいい。確かめさせてくれよ、キセキの世代ってのが、どんだけのモンか!」

 火神は、無表情の白美をまたチラッと一瞥した後、自信げな笑顔でボールを持つ黒子に挑戦を持ちかけた。
 日本のバスケとやらが、キセキの世代とやらが、一体如何程のものなのか。どれくらい強いのだろう、どれくらいこの自分を楽しませてくれるのだろう。
 火神は、内心わくわくして仕方なかったのだ。

 その様子を、白美はコートの外でじっと見守る。
 彼の表情は柔和で温厚なそれとはかけ離れ、ニタリ、そしてオレンジは相当に鋭い。

――言うなれば、始まるのは黒子が試験監督、火神が受験者の抜き打ち実力テスト。

(さぁて、期待してるよ?)

「奇遇ですね。僕も君とやりたいと思っていたんです」

 黒子は制服の前ジッパーをゆっくりと下げて言った。

「っ」

 そして、火神が真剣な顔つきになるとほぼ同時に、黒子はバサッとなんかかっこよく上着を脱ぎ捨て、強い眼差しで一言。

「1on1」

「やるか」

 自信げに笑う火神と真剣な表情の黒子が、バスケットコート内で対峙する。

――もし、あそこに自分も立つことができたなら。

 一瞬浮かんだ思いを、白美はぐっと腹の底奥深くまで押し返した。


(Pardon?)

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