02Q 6
 白美が無表情の下、鋭い目付きで眺める先で、真剣な貌でボールをつくオフェンス火神と、ディフェンス黒子が対峙していた。
 バスケットコートの中心に、ピリピリとした緊張感が漂う。

 間もなく、火神は上体を屈めてドリブルをし、綺麗に黒子の横を抜けた。
 僅かに伸びる黒子の手を諸共せず、ジャンプしてシュート――そこでハッとする。

 その次のオフェンスでも火神は黒子を抜き、ディフェンスではボールを簡単に奪い、また抜き、漸く黒子がシュートを決めるかと思ったが――、簡単にボールを叩き落とせてしまう。

(ふっ、相変わらずだねぇテッちゃん)

 白美は薄く微笑みながらそれを見ていたが、火神は違った。

(死ぬほど弱ぇえ)

 転がったボールを拾いに走る黒子を、失望に肩を落として溜息がちに見つめる。

(体格に恵まれてなくても、得意技極めて一流になった選手は何人もいる。けどコイツは、ドリブルもシュートも素人に毛が生えたようなもん……取り柄もへったくれもねぇ、話になんねぇ!)

 ボールを持って戻ってきた黒子を、火神はイライラと腹立たしげに見下ろした。

「ふざけんなよテメェ! 話聞いてたか!? どう自分を過大評価したら俺に勝てると思ってんだオイ! すげぇーいい感じに挑んできやがって!」

 火神は、黒子に向かって怒鳴り散らす。
 白美は、それを聞いて微かにやれやれと首を横に振った。
 しかし、黒子はけろっとしたものだ。

「まさか、火神君の方が強いに決まってるじゃないですか。やる前からわかってました」

 そう言われて、火神は更に強い怒りを覚えた。
 黒子の胸倉をつかみ、グッと引き寄せてドスの聞いた声で怒鳴る。

「喧嘩売ってんのかオイ!! どういうつもりだ!!」

 しかし、やっぱり黒子はけろっとしたものだった。

「火神君の強さを直に見たかったからです」

「はぁ?」

 それを聞いて、気の抜けた火神は黒子の胸倉を離し、沸き起こる失望に頭を押さえた。

(ったく、どうかしてたぜ俺も。しらがもアイツもキセキの世代だの帝光だのって騒がれてたから強えぇと思ったけど、少なくともコイツが無臭なのは、只臭いもしない程弱いだけかよ……。アホらし)

 しかし、黒子はどうしてもケロッとしたものだ。

 表情筋一つ変えないまま、「あの……」とボールを火神に差し出す。

「あぁ、もういいよ、弱ぇえ奴に興味ねぇから」

 だが、火神は疲れたような声音で言うと、ボールを押し返しコートの外に向かって歩いて行ってしまった。

 白美と黒子は、それを無言で見つめる。

 最後に火神はベンチにかけてあった制服の上着を肩に背負い、黒子を振り返った。

「最後に一つ忠告してやる。お前、バスケ止めた方がいいよ。努力だのなんだの、どんな綺麗ごと言っても、世の中に才能ってのは厳然としてある。お前に、バスケの才能はねェ。それにしらがも。怪我してバスケできねぇのは辛いだろうが、そもそも強くなきゃなんの意味もねぇし。もっと他の事に時間費やした方がいいんじゃねえの」

(……そういうことじゃねェんだけどなァ)

 火神の言葉に、白美は一瞬むっと顔を歪めたが、すぐに意識して制した。

 と、背を向けた火神を、黒子の声が止める。

「はじめにいっておきますが、しら――白美くんはとても強い選手です。それから、それは、嫌です」

「あ?」

 黒子は、歩みを止めた火神に歩み寄り、その背後に立つ。

「まずボク、バスケ好きなんで。それから、見解の相違です。ボクは強いとか弱いとかどうでもいいです」

「なんだと」

「ボクは君とは違う」

 黒子はライトが作り出した、コートに映る己の影を見つめた。





「――ボクは、影だ」




(つかテッちゃん俺のことしらがって、しらがって……)


(That's well said)

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